文と写真/田島麻美

 

ここ数年、夏の長期バカンスはスイス・フランスとの国境にあるヴァッレ・ダオスタ州の山奥で過ごすのが習慣になった。モンブランの麓クールマイヨールやグラン・パラディーゾの中心コーニュといった街では日本人の登山愛好者グループの姿を見かけることも多くなり、イタリアの山の魅力が徐々に知られるようになったことをとても嬉しく感じている。山のバカンスの魅力は一言ではとても言い尽くせないが、WiFiも携帯電波もない場所に身を置くことは、それだけでも日常から完全に切り離された時間を満喫できるという効果がある。回を重ねるごとにどんどん深みにはまり込んでいるヴァッレ・ダオスタ訪問。今回はその中でもとっておきの秘境のアグリツーリズモをご紹介しよう。

 

グライエ・アルプス山脈にある自然保護区

 州内にモンブラン、グラン・パラディーゾ、モンテ・ローザ、マッターホルンという4千メートル超の山々を要するヴァッレ・ダオスタは、そのエリアのほとんどが雄大な自然の保護区となっている。州の東南に位置するモン・アヴィック自然公園も、5.747ヘクタールに及ぶ広大な面積の自然環境を大切に保護しているエリアで、1989年にグラン・パラディーゾ国立公園に次いで自然公園となった。モンブランやグラン・パラディーゾに比べると知名度は低いが、モン・アヴィック(=アヴィック山)も標高は3003m、その周囲に連なる山脈もことごとく3000mを超え、イタリア国内でも人気の高山トレッキング・コースが多数あることで知られている。国境が近いこともあり、トレッキング・ルートではイタリア人よりもフランス人やスイス人のハイカーとよくすれ違う。言語もイタリア語、フランス語、英語の3カ国語が日常的に使われているのだが、イタリア語とフランス語を独自にミックスしたこの地方の方言だけは何度聞いても理解できないほど難解である。アルプス山脈の合間にできた深い緑の渓谷と清涼感溢れる川や滝といった風景の中に、グレーの石造りの家々が集まった小さな村が点在している。高い山の上から渓谷を見下ろすと、村も家も人々の暮らしも、全てが雄大な自然の一部として溶け込んでいるのを感じることができる。

 

マッターホルンとモンテ・ローザの雪山を背景に、7つの湖を渡り歩くトレッキングコースNo.5はモン・アヴィック自然公園の人気ルート(上)。深い緑の渓谷の間に小さな村々が点在している(中)。透明な雪解け水が滝や川となって縦横無尽に流れる公園内(下)。