文と写真/田島麻美

 

本格的な夏のバカンスシーズンが始まり、ローマっ子達も長い休暇を満喫しようとこぞって街を脱出し始めた。普段は騒々しい住宅街に静けさが広がるこの季節は、家のバルコニーでゆっくり夕涼みをするのが楽しみの一つとなっている。こんな風にゆったりと「時を過ごす感覚」というのは、仕事や雑事に追われる日々の中では自然と麻痺してしまうものなのかもしれない。「ゆったりした時間、ゆったりした暮らし」に思いを巡らせていた時、ふとオルヴィエートの街のことを思い出した。『チッタスロー(=スローシティ)』と呼ばれる国際的な街づくり運動の本拠地があるオルヴィエートは、ローマから各駅電車で1時間ちょっとで行けるウンブリア州の中世の街で、住民達は地域の食文化、歴史、生活文化や自然環境を厳格に守りつつ、健康的で自然な暮らしの哲学を実践しているのだそうだ。夏の一日、スローシティでゆったりした暮らしを体験してみようと足を伸ばしてみることにした。

 

世界一美しい丘上都市

 ウンブリア州の豊かな自然に囲まれた丘の上にそびえる中世の街オルヴィエートは、別名「世界一美しい丘上都市」と呼ばれている。FS駅前の広場に出ると、正面にあるケーブルカー駅の真上に旧市街を取り囲む凝灰岩の砦がそびえているのが見えた。標高325mに位置する旧市街は一般自動車の乗り入れが禁止されている。そのため、丘の上の街にはケーブルカーかバスで登って行き、入口の広場からはひたすら歩くしかない。車がないと不便に思われるかもしれないが、実はこれこそが「自然のリズムに沿ったゆったりした暮らし」を実現する鍵となっている。

 丘の上の城塞都市は古代ローマよりも古いエトルリア時代に起源を持つ。紀元前約280年に古代ローマ人がこの街に侵略した際、ラテン語で古い街を意味する「Urbs Vetus(ウルブス・ウェストゥス)」と名付け、それが訛って「オルヴィエート」と呼ばれるようになったという。古代ローマ人が「古い街」と呼んだほどだから、その歴史の古さは計り知れない。現在の旧市街の街並みは中世時代のもので、ウンブリア・ゴシック建築の傑作と言われるドゥオーモ、16世紀に教皇クレメンス7世が作らせた巨大な聖パトリッツィオの井戸をはじめとする歴史遺産、文化遺産が数多く残っている。さらに興味深いのは、旧市街と二重構造を成す古代エトルリア人が暮らした地下都市の存在である。『オルヴィエート・アンダーグラウンド』というガイド付きツアーに参加すれば、古代の街の通りや住民の暮らしぶりがうかがえる地下都市散策も体験できる。

 

鉄道駅の正面にある『Funicolare/フニコラーレ(=ケーブルカー)』の駅。バスの停留所も隣にある。ここから城壁で囲まれた旧市街に登って行く。バス・ケーブルカーの切符は鉄道駅の売店で購入できる(上)。丘の上にある城壁の公園の入り口(中)。公園内にはウンブリアの緑のパノラマと、〝ルーペ〟と呼ばれる岸壁を見渡す展望ポイントもある(下)。
ルネサンスの巨匠・ルカ・シニョレッリの傑作『最後の審判』の壁画が残るゴシック様式の大聖堂(上)。直径13m・深さ62mの巨大な「サン・パトリッツィオの井戸」は1527年、ローマ略奪からこの地に逃れてきた教皇クレメンス7世によって作られた。内部には248段の二つの螺旋階段があり、見学もできる(中)。古代地下都市探検ができるガイド付きツアー「オルヴィエート・アンダーグラウンド」はドゥオーモ広場にあるツーリスト・インフォメーションでチケットを販売している(下)。