アーティストや職人達が暮らす「スローシティ」

 古い歴史と美しい街並みを今に残すオルヴィエートが「Città Slow/チッタ・スロー(=スローシティ)」という街づくり運動の本拠地となったのは1999年。「ゆっくりした街」を意味するスローシティ運動は、それ以前にイタリアで起こったスローフード・スローライフ運動から発展したもので、それぞれの街や地域が持っている歴史・文化・自然環境を大切にし、その価値を再発見して持続可能な経済を作り出すことを目的とした地域の文化顕彰活動のことである。加盟するには住民5万人未満、有機農業や学校での食育教育を実践していることなど、55にも及ぶ厳格な審査項目を全てパスしなければならない。現在、世界約30カ国、236都市が加盟しているこの運動の「お手本」とも言われているのが、本部が置かれているオルヴィエートの街なのだ。


 「スローな暮らし」を思い浮かべながら旧市街の目抜き通りを歩いていると、あちこちの店先に個性的なベンチが置かれているのに気づいた。バールやレストランの外にテーブル席があるのはイタリアでは当たり前の光景だが、オルヴィエートの旧市街では陶器の工房、花屋、土産物屋など、あらゆる店舗の入り口横に趣向を凝らした休憩用のベンチが置かれている。歩き疲れたツーリストも、井戸端会議に花を咲かせる住民のお年寄り達も、誰でも気軽にちょっと一息つけるベンチが通りにあるだけでもありがたいが、店主達の心意気やこだわりが感じられる個性的なベンチの数々は、思わずシャッターを切りたくなるような愛らしさも持ち合わせている。ベンチに惹かれて店を覗いて見ると、中では職人やアーティスト達が黙々と作品作りに没頭していた。伝統工芸だけでなく、若手アーティストの工房もたくさんあり、「手仕事の一点物」を見つけるのが大好きな私にとっては願ってもないショッピング・ストリートだ。それぞれの店で職人さん達とのおしゃべりを楽しみながら、通りの左右をジグザグに歩いて工房兼ショップをいそいそとハシゴする。彼らに街での暮らしぶりを尋ねてみると、「静かで、とにかくゆったりと時間が流れる。都会の暮らしに比べるとまるで別世界だよ」と誰もが口を揃えて言った。

 

緑の木陰が涼しい旧市街の入り口・カヴール大通り。ここから先へ進むと細い路地が入り組む中世の街並みが現れる(上)。あちこちで目にするベンチはどれも人の手の暖かさが感じられるものばかり。わざわざバールに入らなくてもちょっと一休みできるのも嬉しい(下)。
工房を兼ねたショップが軒を連ねる旧市街の通り。オルヴィエートの伝統工芸である陶器の店は特にバラエティに富んでいる(上)。木の板や石の上に描かれた美しいハンドペイントは、アルゼンチン出身のシニョーラが一つ一つ手描きで作り上げた作品。シニョーラは「静かで豊かな生活」を求めてローマからオルヴィエートに引っ越してきた(中&下)。