文と写真・田島麻美

 

 イタリアの夏のバカンスといえば、恐らく大半の人が海を思い浮かべるだろう。シチリア島やサルデーニャ島、ポルトフィーノやアマルフィなど、「イタリア=美しい海」のイメージは世界中の人々の間に浸透している。夏のバカンス期間、当然ながら人気のビーチは国内海外から押し寄せるバカンス客でごった返すことになる。そんな季節、混雑を避けて涼しい水辺でリラックスした休暇を過ごしたい人にオススメなのが、イタリア各地に点在している湖でのバカンスだ。
 ローマから日帰りでも行けるネミ湖は規模こそ小さいものの、観光化されていない素朴な自然のままの美しさが残っている。湖を見下ろす丘の上にはイチゴ祭りで有名なネミの旧市街もあり、牧歌的な雰囲気に包まれている。今回は、アルバーニ丘陵地帯にある小さな湖畔の避暑地をご紹介しよう。

 

古代ローマの女神ディアーナの聖地

   古代ローマ時代から貴族や法皇の避暑地として栄えてきたカステッリ・ロマーニ地方には、アルバーノ湖とネミ湖という2つのカルデラ湖がある。湖を取り囲む風光明媚な丘陵地帯は穏やかな気候で知られ、夏でも爽やかな風が吹き抜けている。二つの湖のうち大きなアルバーノ湖畔にはローマ法王の避暑地カステル・ガンドルフォがあり、人気の観光地となっている。一方、小さなネミ湖周辺には、手付かずの素朴な自然が残されている。 観光船もバールもレストランもなく、ひっそりと美しい湖水を湛える可愛らしい湖は訪れる人を穏やかな空気で包み込んでくれる。ネミ湖を取り囲む深い森は古代ローマ神話に登場する狩の女神・ディアーナに捧げられた聖地で、付近には古代ローマのディアーナ神殿の遺跡も残っている。湖とネミの街一帯にどこか神秘的な雰囲気が漂っているのは、この地に古代の女神の息吹が残っているからなのかもしれない。
自然に恵まれた環境に加え、ネミの街はまた、ホスピタリティの面でも質の高さを誇っている。ツーリング・クラブ・イタリアーノ(イタリア旅行協会)が「優秀かつ高品質のホスピタリティを提供する住民1万5千人以下の町」に授与する『バンディエラ・アランチョーネ(オレンジの旗)』を授与された実績があり、これは観光環境のあらゆる面で高品質を維持している証しでもある。

 

狩の女神ディアーナに捧げられた聖なる湖と森(上)。高品質な観光環境を持つ証である『バンディエラ・アランチョーネ』の看板。現在は住民人口が増えたため選出条件を満たしていないが、もてなしや環境の質は維持されている(中上)。湖と森を見下ろす高台にあるネミの街(中下)。街の入り口ウンベルト1世広場にある「大いなる母の像」は、ネミの自然の生命力と希望を表すシンボル(下)。