文/チョン・ウンスク

 

 主役ではないが、今の季節にギラっと光る名脇役がいる。韓国語で풋고추(ブッコチュ)。青唐辛子のことだ。

 カルビやサムギョプサルを頼むと、水で洗っただけの青々とした生の唐辛子が数本、つきだしのように添えられる。たいてい甘辛の合わせ味噌が付いてくる。

 主菜を待つあいだ、ビールをグラスで乾す。

 

 ぷはあっ

 

 次に手がのびるのがブッコチュだ。味噌をつけてかじると、雨上がりの草むらのような香りがする。ほろ苦いが、すがすがしい。合わせ味噌は汁物をつくるためではなく、生の野菜を美味しく食べるためにあるのでは。そんなふうに思えてくる。

 味噌をつけてもうひと口。これを何度か繰り返すうちにビールが1本空く。

 

 日本の映画に似たような場面があったと記憶している。あれは『三文役者』(2000年、新藤兼人監督)の荻野目慶子だったか、『異人たちとの夏』(1988年、大林宜彦監督)の秋吉久美子だったか。畳の部屋で人妻がひとりキュウリをかじりながらビールを美味しそうに飲む様子がなんとも艶っぽかった。

 キュウリの丸かじりは、日本の夏の風物詩だと聞く。ブッコチュの丸かじりもそれに近い。

 成形した野菜スティックならコンビニで売っているが、そんな気取ったものを食べている場合ではない。たまらなくなって近所のスーパーに走ると、忠清北道・槐山(クェサン)のブッコチュが売られていた。

 槐山は2008年の夏、唐辛子の収穫作業をこの目で見ようと訪れたことがある。唐辛子祭りが行われるほどの名産地だ。農家のハルモニたちといっしょにブッコチュをもぎ、畑道に立てたテントの下で昼ごはんを食べたのはいい思い出だ。

 久しぶりに槐山のブッコチュをかじってみると、口中に彼の地の太陽と土の匂いが広がった。

 

食堂でつきだしとして出てくるブッコチュは辛くないものがほとんど。辛い物がほしければ、「メウンコチュ」を頼めば出してくれる
槐山で食べたブッコチュと地元の生マッコリ
槐山でのブッコチュの収穫。手前が唐辛子農家の主人、奥が筆者。

※韓国産唐辛子は日本でも通販で買うことができる。https://www.kfoods.jp/

【8月22日、9月26日、10月24日、本コラム筆者のオンライン講座があります】
「韓国女性が教える韓国60分レッスン」
①8月22日 地図で知る韓国
②9月26日 10のキーワードで知る韓国
③10月24日 韓国料理50年史
いずれも日曜16時から1時間+アルファです。名古屋栄教室の大型スクリーンでの受講も可能です。
お申し込みは下記、栄中日文化センターのサイトか、お電話(0120-53-8164)で。
https://www.chunichi-culture.com/asp-webapp/web/WKozaKensaku.do?baseScreen=3000&wbKozaKensakuJoken.shishaId=3000