文と写真/田島麻美

 

ローマの自宅で暑さに耐える毎日にうんざりしながらネット・サーフィンをしていた時、画面にふと涼し気な緑と噴水の画像が現れた。噴水庭園といえばティヴォリのヴィッラ・デステが有名だが、写真を観るとそれに勝るとも劣らない美しい庭園のようだ。気になって調べてみると、この庭園「ヴィッラ・ランテ」はヴィテルボ近郊のバニャイアという小さな村にあるらしい。ヴィテルボならローマから鉄道とバスでアクセスできるし、車があれば更に近い。ちょっと涼をとりに出かけるのも悪くないなと思い立ち、同じように暑さにうんざりしていたローマ人の親友を誘ってみたところ、喜んで車を出してくれることになった。束の間の涼を求めて、早朝から日帰りドライヴに出かけることにした。

 

イタリア庭園の最高傑作と謳われる噴水庭園

 バニャイアの駐車場に車を停め、「Villa Lante / ヴィッラ・ランテ」の標識を目印にコンクリートの階段を登っていくと、目の前に突然、中世時代の衣装を身につけた人々の壁画があわられた。真っ赤なドレスの女性が、誘うように隣の入り口を指差している。どうやらこの通路が街の入口らしいが、テーマパークのアトラクションの入口のような仕掛けになんだかドキドキしてきた。中世の村人達の日常風景が描かれた通路を抜けると、バニャイアの中心9月20日広場に出た。右を向くと遠くにヴィッラ・ランテの門が、左を向くと古めかしい時計塔が見える。広場のバールで尋ねると、塔の先には中世の街並みがそのまま残る集落があることがわかった。これは見逃せないと思ったが、バニャイアは小さな村なので散策する時間はたっぷりある。太陽が本気を出す前に、まずはヴィッラ・ランテを見学してから集落を散策しようと決めて歩き出した。

 ヴィッラ・ランテで入場チケットを購入すると、窓口のシニョーラが「今日は館内の特別公開もしているから良かったら予約する?」と尋ねてきた。普段は一般公開されていない二つの館をガイド付きで見学できるという。人数限定だが、ツアー代は入場券に含まれているので追加料金は不要。思いがけずラッキーな展開に喜んだ私達は早速予約リストに名前を書き、ツアーが始まるまでの時間を噴水庭園散策で過ごすことにした。

 

バニャイアの駐車場から旧市街へと通じる通路の入口。迷路のような通路の壁面には中世の人々が描かれている(上)。広場右手のバロッツィ通りの再奥にヴィッラ・ランテの門が見える(中上)。庭園のエントランスにある見事な彫刻が並んだ「ペガサスの噴水」(中下)。美しい幾何学模様の緑が様々な噴水を取り囲むヴィッラ・ランテの庭園(下)。

 

 バニャイアの街を見下ろすチミーニ連山の斜面に作られたヴィッラ・ランテは、16世紀にヴィテルボの司教であったランチェスコ・デ・ガンバラ枢機卿の別荘として建設された。幾何学模様の迷路のような緑、高低差のある地形を活かした回遊式噴水、左右対称に建てられた二つの館など、この土地の自然環境を最大限に利用しつつ当時の建築技術と芸術の粋を集めて造られたこの別荘はイタリア式庭園の最高傑作として名高く、2011年には「イタリアの最も美しい庭園」で堂々一位に輝いたそうだ。朝の風に吹かれ、涼やかな水音をBGMに美しい庭内を散策していると、ルネサンスの貴婦人にでもなったような気分。更に面白かったのが、庭園の至る所に潜んでいる「海老」探し。イタリア語で「ガンベロ」は海老を意味するが、ヴィッラの所有者であったガンバラ枢機卿は自身の家名「ガンバラ」から連想される海老のモチーフの彫刻や壁画などを庭園内の各所に散りばめた。いかにも貴族的な遊び心たっぷりの仕掛けが、優雅な庭内散策をより一層楽しくしてくれる。

 

庭園の中央に位置する「巨人達の噴水」。上部中央から海老が水を注ぎ込んでいる(上)。高台からバニャイアの街を見下ろすテラスまで一直線に伸びた「鎖の噴水」。巨人達の噴水の海老のちょうど背の部分にあたり、巨大な海老のようにも見える(中上)。ヴィッラの再奥、最も高台に位置しているシダの緑が美しい「洪水の噴水」。ここから流れ落ちる水が園内の各噴水に循環するシステムになっている(中下)。古代ローマをモチーフにしたガゼボにはガンバラ家の家紋である「海老」のシンボルが彫られている(下)