ルネサンスとバロックの対比が見事な二つの館

 噴水庭園を散策して涼を満喫するうち、予約したガイド付きツアーの開始時間がやってきた。ヴィッラの入口に集合した20名弱の参加者をリストで確認すると、大きな鍵束を持ったガイドのおじさんが、「じゃあ、行きましょうか。私に付いてきて下さいね」と声をかけて歩き出した。

 最初に入ったのは、庭園から見て右手にある館。小さな扉を開けて中に入った途端、参加者のため息が聞こえてきた。ガンバラ枢機卿の館として1568年から1578年の間に建てられた館は、ルネサンス後期の珠玉の芸術で彩られている。特に各部屋の壁面から天井までを装飾するフレスコ画と彫刻が見事で、保存状態も素晴らしい。館の規模はこじんまりしているものの、聖職者の別荘らしく聖書の一節をモチーフとしたフレスコ画と白・金・黄色を基調とした華麗な室内装飾は気品に溢れている。窓辺には幾何学模様の噴水庭園と旧市街の塔のパノラマが広がり、心憎い演出が細部にまで行き届いている。ルネサンス期イタリアの建築技術は世界最高水準だったと言われているが、まさにその実力が感じられる館である。

 

ヴィッラ入口のポーチに描かれた建築家ヤコポ・バロッツィの設計図のフレスコ画(上)。ガンバラ枢機卿の館のエントランス。名前の周囲に家紋の海老のシンボルも見える(中上)。後期ルネサンスの芸術・建築技術が凝縮された室内(中下)。ルネサンスらしい華やかで優雅な装飾。ところどころ修復されてはいるものの、大部分はオリジナル。400年以上も経っているとは思えないほど保存状態が良い(下)

 

 ガンバラ枢機卿の館見学が終わると、一行は左手にあるもう一つの館へ移動。左右対称に造られた建物は双子のようにそっくり同じだが、室内の装飾は全く異なる。こちらもエントランスに入った途端、参加者から歓声が上がった。先ほどの館が優雅で女性的なルネサンス芸術の宝庫であるのに対し、こちらは打って変わって豪快で男性的なバロック芸術の宝庫。というのも、こちらの館の主人はガンバラ枢機卿の後を継いで司教となったモンタルト・ぺレッティ枢機卿で、彼は1590年から1612年にかけて館の室内をバロック全盛期の芸術で装飾した。各部屋の随所に初期キリスト教徒にとって重要なシンボルである数字の8を意味する八角形の星を散りばめたフレスコ画やだまし絵などが施され、ミステリアスな雰囲気と遊び心がミックスした面白さがある。外観はそっくり同じでも内部はまるっきり趣が異なる二つの館を一度に見比べることができたのも興味深い体験だった。どちらの館も、室内に一歩入ればきらびやかな芸術が心を潤してくれる。さらに、戸外に出れば穏やかな樹々や植物、楽しい噴水庭園が疲れを癒してくれる。このヴィッラがなぜ「イタリア式庭園の最高傑作」と呼ばれているのか、その理由がわかった気がした。

 

ルネサンスのガンバラ館とはガラッと雰囲気が変わるバロックのモンタルト館のエントランス(上)。立体的な彫刻のように見えて実は平面に描かれた3Dのフレスコ画。8角形の星やライオンなど、大胆な構図がいかにもバロックらしい(中上)。大広間の天井に描かれただまし絵。室内のどの方向へ動いても、女性が見上げる人を見つめているように描かれている(中下)。庭園内にたくさん植えられているスズカケノキは、1500年代から生き続ける貴重な自然の遺産(下)。