文・写真/光瀬憲子

 

 12月から2月を除けば常夏のような台湾で、夏らしい食べ物を挙げるのは難しい。ましてや、日本や韓国と比べると飲み屋の数が驚くほど少ない台湾で、夏のつまみと言われても答えに窮してしまう。

 台湾の飲食店というのは困ったもので、飲兵衛の喉を鳴らす食べ物を提供しておきながら、冷蔵庫に酒がない店が多い。補充し忘れているわけではなく、最初から置いていないのだ。私のような飲兵衛には残酷な仕打ちである。

 酒を連想してしまう台湾の食べ物の筆頭が黒白切(ヘーバイツェ)と呼ばれる豚モツのスライスだ。下味を付けずに茹でたモツに甘辛のタレをつけて食べる。ホルモンやレバ、ハツはもちろん、日本ではなかなかお目にかかれない目玉や歯茎を出す店もある。

 豚モツを醤油で煮た滷味(ルーウェイ)も酒なしで食べるのは難しい。ビールもいいが、韓国の冷えたソジュ(焼酎)がほしくなる味だ。

 台湾では豚モツは酒の肴と言うより、ごはんものや麺類のサイドメニュー的な立ち位置だ。飲兵衛からすれば「まったくどうかしてる」としか言いようがない。だからといって台湾人が酒嫌いというわけではない。コンビニの酒コーナーには30度、40度、50度を超える多彩な蒸留酒が並んでいる。

 豚モツやガチョウ肉、ラム肉など、私が勝手に酒のつまみとして食べている台湾の料理に欠かせない添え物がある。薑絲(ジャンスー)と呼ばれる生姜の千切りだ。台湾で豚モツを頼めば、その脇にはかならずと言っていいほど薑絲がある。加熱も味付けもしていないので、生姜の香りと刺激がそのまま伝わってくる。

 清涼感と辛味が口中をさっぱりさせてくれるだけではなく、強い殺菌作用が細菌の繁殖を抑制してくれる。日本の寿司にガリ(生姜の甘酢漬け)がつきものなのも同じ理由だ。生姜には発汗作用もある。汗が気化熱を奪って涼しくなることを、台湾の人は身体で知っているのだろう。

 台湾に行けなくなって1年と半年が過ぎた。気温が30度を超える昼下がり、仕事部屋で延々とPCに向き合っていると、薑絲の清々しさが恋しくなる。

 

台北、大稻埕慈聖宮の前でビールを飲む男たち
豚モツのスライスと甘辛いタレ。左にあるのが薑絲(生姜の千切り)
ガチョウ肉と薑絲
ラム肉にも薑絲が付き物