第二次大戦時の5倍以上の犠牲者が出たロンバルディアのジレンマ

 2月18日に北イタリアの小さな街コドーニョで初の感染者が発見されてから、ロンバルディア州では文字通り「あっ」という間に感染が拡大した。イタリアで最初に発見された新型コロナウイルス感染者は中国武漢から旅行に来ていた中国人夫婦で、1月末にこの2名は滞在先のローマの病院で治療を受け、その後完治して無事帰国した。それから3週間の不気味な空白後、ウイルスは突然、誰も予測できなかった北イタリアを襲い始めた。しかし、遠い国の見知らぬ街で発生した未知のウイルスの脅威はどこか現実味に欠ける出来事で、コドーニョの街を封鎖した後も、北イタリアのほとんどの市民は「これで感染は封じ込められた」と考えていたのではないだろうか。悲しいことに、この認識の甘さがもたらしたほんの1週間程度の対応の遅れが、その後の爆発的な感染拡大を引き起こし、瞬く間にイタリア全土を巻き込む大惨事へと発展してしまったのである。
 ミラノを中心とするロンバルディア州は最初に感染が拡大したエリアで、現在までのイタリア国内の感染者の63%、犠牲者の56%がこの州に集中している。国内総生産の1/3を占める工業の中心地である同エリアはまた、イタリア経済の心臓部でもある。その北イタリアが最も甚大な被害を受け、最も長いロックダウンに耐えなければいけないという二重の悲劇が起こっているのである。ロンバルディア州では大小様々な企業が「一刻も早く工場を稼働したい」と政府に圧力をかけているが、今なお3万人以上という断トツの感染者がいる同エリアで営業を再開することはあまりにもリスクが大きい。全国民が6週間の封鎖生活に耐え、ようやく先が見えるようになってきた今、一気に活動再開をすることで再び感染爆発が起こるような事態だけは絶対に避けなければならない。北部イタリアは現在、非常に切迫したジレンマに陥っているが、イタリア保健非常事態担当のアルクーリ弁務官は18日の記者会見でこう述べた。「ロンバルディア州では5年間に及ぶ第二次世界大戦の爆撃で2千人の市民が犠牲となった。今、コロナウイルスにより2ヶ月の間に1万1851人の市民が命を落としている。犠牲者の数は第二次大戦時の5倍以上だ。健康なくして経済の再開などあり得ないということは明白で、健康と経済回復を対立させて考えるのは大間違いだ。可能な限り多くの市民の健康と安全を保証しつつ、経験と知恵を持って慎重に再開する必要がある」。
 復活祭前にロックダウンの延長を告知し、5月4日以降、段階的に封鎖を解除していくとコメントしたコンテ首相は、今週中にも解除後の具体的な計画・行動指針を発表すると語った。移動制限の緩和により感染が再拡大するリスクは当然あるが、このままでは経済そのものが根底から崩れてしまう。コンテ首相は「入念な調査と科学的データの分析、専門家の意見に基づいて制限の緩和を進めていく。リスクを最小限に止める準備を怠らなければ、リスクを容認することはできる」と言っている。「ウイルスとの共生」という未知の日常に踏み込んでいくための政策は、この数日間のうちに発表される。

 

市民生活に直結した様々な問題への支援

 ウイルス感染の恐怖と経済問題という2つの難問に板挟みになりつつ、全国民が6週間超の隔離生活に耐えているイタリアだが、幸いなことに大きな暴動もデモも起きていない。天気が良い日は太陽に惹かれてついフラフラと出歩いてしまう人達も確かにいるが、彼らは皆一様に取締りの警察官によって高額な罰金を徴収されている。中には「これで罰金9回目!」とSNSでアピールしている不届き者もいるが、大半の市民は一度の罰金で懲りて渋々と家に引き返しているようだ。
 3月からのロックダウンに際し、困窮する家庭への様々な補償や支援がなされているが、これは延長後も引き続き行われている。あまりに長い申請リストを処理する人手が足りず、一時金の支払いに遅れが生じる事態も起こったりしたものの、自営業者、フリーランス、非正規労働者、演劇・芸術に従事する人達などには4月17日までにまず600ユーロが支払われた。さらに5月6月は補償額を800ユーロに引き上げた額が銀行振り込みで支払われる予定だ。失業して住宅ローンが払えず、家を失うリスクがある家庭は3月末で20万世帯に上ったが、こうしたリスクを抱えた家庭は9ヶ月間の一時支払い中断を金融機関に申請できる。また、学生など賃貸アパートで暮らす人達を救済するため、6ヶ月間は家賃未払いでもアパートからの追い出しが禁止されている。中小企業への緊急融資には、信用評価にかかわらず、売上高の25%までを政府が100%保証することで融資を受けられるようになっている。
 現実的な生活の困窮を支援するために、食糧などの現物支給や商品券の配布、子どものオンライン学習に不可欠なパソコンやタブレットの無料配布、現金の振り込みなどが行われている一方で、より精神的な支えとなるような活動も多岐に広がってきている。昨日は、コロナウイルスで最も深刻な被害を受けたベルガモ近郊の小中学校のオンライン授業に、イタリアサッカー界のレジェンド、フランチェスコ・トッティが突然飛び入りで参加し、子ども達を歓喜させた。「困難なこの時、一人ひとりが犠牲を払っている。それがとても厳しいということはわかっているけれど、こうすることで、僕らは皆んなで目標を達成することができるんだ」。突如パソコン画面に現れたトッティのこの言葉に、600人の子ども達は大感激したという。サッカー界では他にも、ASローマをはじめセリエAの各チームのスター選手、監督らが給料の4ヶ月分を自主返納し、クラブを助けようと活動している。また、イタリア警察は家にいる子ども向けに『警察官と遊ぼう!」というサイトを開設した。これはゲームや創作活動を通じて友情や連帯、ルールを守ることの大切さ、インターネットやセキュリティに関する知識などを学べるサイトで、現役の警察官が子ども達の指導役を務めてくれる。テレビ局は学校によって差が出てしまう授業内容をカバーすべく、小中学校のカリキュラムに即した授業プログラムを組んで放送するなど、新たな試みが登場してきている。

 

イタリア保健省のサイト内に開設された『警察官と遊ぼう!」のサイト(Ministero della Saluteのサイトより引用)