文と写真・室橋裕和

 

 僕はタイに住んでいたことがある。だから日本に帰ってきても、タイ人たちが住む街を訪ね歩いてきた。千葉・成田や東京・八王子にあるタイ寺院、タイ料理店が点在する錦糸町……しかしどこも、小さなコミュニティだ。お寺のまわりにタイ人がたくさん住んでいるというわけでもない。神奈川・伊勢佐木町にも、バブルの頃から続くタイ料理店やマッサージ屋が集まる一角があるが、ささやかなものだ。

 タイ人が集住する「リトル・バンコク」的な街は、日本に存在しないのである。日本にはおよそ5万3000人のタイ人(2020年末現在)が暮らしているが、特定の街に集まることなく、広く薄く日本社会の中に溶け込んでいっているのだと思う。そして各地で、近隣に住むタイ人とその家族の日本人がゆるやかにつながって暮らし、小さなタイ料理店やスナックや食材店などを営んでいるが、そんな店を比較的よく見るのは茨城県なのである。

タイマッサージ店に挟まれたインドネパール料理店。茨城県ではこんな光景をよく見る