文/チョン・ウンスク

 

 私が追い求めている“韓国らしさ”。つまり、おおらかな人間関係やストレートな愛情表現などがソウルなどの大都市でもふつうに見ることができたのは、2002年の日韓ワールドカップ頃までだったと思う。

 今回は約20年前のソウルの写真を見ながら、変わったこと、変わらないことについて書きたいと思う。

 

■「物価」 忠武路の仁峴市場で買ったもの 

仁峴市場で買ったビールとつまみ3種。HITEやCassのラベルデザインが懐かしい

 

 上の写真は2000年に出した単行本のコーナー企画「1万ウォンで部屋飲みに挑戦!」で撮影したものだ。当時はまだフィルムカメラが主流で、これはポジフィルムをスキャンしてデータ化したので、ずいぶん昔の写真のように見える。

 日本から来た取材チームが忠武路のホテルに滞在していたので、駅の近くの生活市場「仁峴市場」で酒やつまみの買い出しをした。

 写真左はキムチのジョン(チヂミ)で1500ウォン、奥のスンデ(腸詰)は2000ウォン、右の野菜のジョン(天ぷら風)が2000ウォン。

 これに1本2000ウォンのビール大瓶2本を足して、9500ウォン(約1000円)だった。割高なビールを1本にすれば、ソジュ(韓国焼酎)が2~3本は買えたので、まさに“せんべろ”である。今ならこの倍は出さないと同じものを再現するのは難しい。

 仁峴市場は店の看板こそ区が提供した統一規格になっているものの、雰囲気は20年前とあまり変わらない。今でもこのような酒のつまみを売っている店は珍しくない。同じ主人が同じ業態でそのまま営業している飲食店は、私の知る限りないが、拙著『美味しい韓国 ほろ酔い紀行』(双葉文庫)でも紹介したように、地方出身の女将が切り盛りする人情酒場とは今でも出合える。

 

忠武路駅の北側からホテルPJの前までのびる仁峴市場。数年前から市がこの市場で開業する若者の支援をしたりして、少しずつ若返りが図られている

■「駅弁」 江原道の古汗駅で

 

2003年の駅弁。大関嶺(テグァンリョン)という江原道の観光地名が冠されている。右が白米で、ミネラルウォーター付き。主菜は白身魚のジョンとトンカツ……

 

 2003年、内国人も利用できる江原道のカジノの取材を終え、古汗駅から忠清北道の堤川駅に向かう車内で食べた駅弁の写真である。


 日本の人は駅弁というものに対する思い入れが深いようで、同行していた日本人2名が嬉々として駅の売店か車内販売で買ったと記憶しているが、その中身は大変残念なものだった。

 そもそも韓国では冷や飯(比喩ではない)を嫌う傾向があり、当時、駅弁はもちろん、コンビニで売っている弁当や海苔巻きも粗末なものが多かった。

 4000ウォンあれば大衆食堂でほとんどのものが食べられた時代なので、この内容で5000ウォンは安くない。くたっとなった白身魚のジョンと乾きかけのトンカツをビールで流し込んだのは、まさに苦い思い出である。

 

■「1500ウォンのクッパ」 鍾路3街で 

 

2000年に撮影した楽園洞の『ソムンナンチプ』。店の入り口脇の大鍋から女将がスープをよそう様子も今とまったく変わらない

 

 この茶色い器を見ただけで、どこの店かわかった人はかなりのソウル通、鍾路3街通といえるだろう。

 タプコル公園の裏手、楽園商街ビルの脇で、干し大根の葉と豆腐を煮た牛ダシのスープ+ごはん+大根キムチを、2000ウォンで商う店は今も健在である。2000年当時は1500ウォンだったから、商いというより炊き出しに近い。

 当時、日本の俳優・中尾彬がテレビ東京の取材でこの店に来たことを思い出す。かなりの食通で、このときの取材でも美味しいものをたくさん食べ歩いたはずだが、1500ウォンのクッパを食べながら、「韓国で食べたもののなかで一番旨いかも」とコメントしていたのには笑ってしまった。

 

 たしかにこの店のクッパは美味しく、忙しいときに立ち食いそば感覚で食べるのには最高だが……。他の店で食べたものがよほど口に合わなかったのだろうか? と心配になったほどである。

 

20年前は女性客の姿はまず見かけなかったが、最近は日本から来た女性旅行者が一人でこのスープをすする姿も珍しくない

(つづく)

「韓国の旅と酒場とグルメ横丁」vol.115(2020.9.4)

 

*著者オンライン講座のお知らせ

「韓国女性が教える韓国60分レッスン」をテーマにしたオンライン講座を行います。

(1)8月22日 地図で知る韓国

(2)9月26日 10のキーワードで知る韓国

(3)10月24日 韓国料理50年史

 いずれも日曜16時から1時間+アルファです。名古屋栄教室の大型スクリーンでの受講も可能です。お申し込みは栄中日文化センターのサイトか、お電話(0120-53-8164)で。

 

*筆者の近況はtwitterでご覧いただけます。

 

紀行エッセイガイド好評発売中!!

カバー03
本連載を収録した新刊『美味しい韓国 ほろ酔い紀行』が、双葉文庫より発売中です。韓国各地の街の食文化や人の魅力にふれながら、旅とグルメの魅力を紹介していきます。飲食店ガイド&巻末付録『私が選んだ韓国大衆文化遺産100』も掲載。

 

 

 

 

 

紀行エッセイガイド好評発売中!!

korea00_book01

うまい、安い、あったかい 

韓国の人情食堂

korea00_book02

港町、ほろ酔い散歩

釜山の人情食堂

isbn978-4-575-31182-2

韓国ほろ酔い横丁 

こだわりグルメ旅

 
 

 
サムスングループ 李健煕の言葉
サムスングループ 李健煕の言葉

韓国最大の財閥企業サムスングループの二代目会長、故・李健煕(イ・ゴンヒ、昨年10月に死去)の発言、語録をまとめた書籍『李健煕の言葉(原題)』(韓国、スターブックス社刊)を、チョン・ウンスクが日本語版として翻訳、刊行したものです。