文/佐藤美由紀

 

 隣に座った担当編集Iさんにひじのあたりをツンツンつつかれ、さらに、私の後方をチラチラ見ながら目配せをされ。

 ムヒカ夫人のルシアと向き合い、本腰を入れて話を聞こうとしたときだっただけに、ほんの一瞬、「もーっ! 取材の邪魔をしないでください〜」と思ったような気もしないでもない。しかし、そう思うが早いか、Iさんの視線をたどった私は、その先に、ひとりの男の姿を認めて「!」。さっき心に生じたかもしれしれないネガティブな感情は吹き飛んだ。

 

「ムヒカにもっとも多大な影響を与えた人物」と言っても過言ではない妻のルシア・トポランスキー。非合法のゲリラ活動は、緊張と孤独と不安との闘い。そんな中で愛を確かめ合ったムヒカとルシアは逮捕されて13年間、別々の刑務所で過ごし、この間、もちろん会えるはずもなく、たった一通の手紙を交わしただけだった。しかし、二人の気持ちが変わることはなく、1985年に釈放されてすぐ一緒に暮らし始める。正式に籍を入れたのは、2005年、ムヒカ70歳、ルシア61歳のときだった。

 

 「日本の取材陣が到着したらしいわ。とりあえず私が相手をしますから、あなたも、あとから出てきてくださいね」

 

 「うーん、面倒だなぁ」

 

 「そんなこと言わないで。そもそも、その人たちは、あなたに会うためにわざわざ日本からやってきたそうよ」

 

 「私に会って何を聞きたいんだろうね。私はもう〝世界一貧乏な大統領〟じゃないんだけどなぁ」

 

 「つべこべ言ってないで。会ってあげなさいよ。いいこと? わかったわね」

 

 「……まぁ、気が向いたらね」

 

 10分か15分かそこら前、多分、家の中では、こんな会話が交わされていたのではないだろうか。
日本人との面談を促す妻と渋る夫。

 しかし、ああだこうだ言っても、結局、夫は妻の言いつけを守るのが常(本当!?)。この夫婦の場合も、夫は、「しょうがねぇなぁ」などとブツクサ言いつつも、家を出て、妻と日本人がテーブルを隔てて向き合う庭に向かった——。

 

何匹もの犬が自由に走り回るムヒカ邸の庭。緑あふれる庭は、ムヒカとルシアが愛して止まない空間。ムヒカの大統領時代、夫妻が公邸での暮らしを拒んだのは、この環境でずっと暮らしていたかったから。

 

 引っ張って、引っ張って、引っ張ってしまいました。スミマセン。

 しかし、もうおわかりかと思う。

 ここで言う妻とは、ルシア・トポランスキー、そして、夫とは、我らが本命のホセ・ムヒカのことである。

 そう、ついに、ついに、(元)「世界でもっとも貧しい大統領」は、私たちの前に姿を現わしたのだった!!