文/佐藤美由紀
隣に座った担当編集Iさんにひじのあたりをツンツンつつかれ、さらに、私の後方をチラチラ見ながら目配せをされ。
ムヒカ夫人のルシアと向き合い、本腰を入れて話を聞こうとしたときだっただけに、ほんの一瞬、「もーっ! 取材の邪魔をしないでください〜」と思ったような気もしないでもない。しかし、そう思うが早いか、Iさんの視線をたどった私は、その先に、ひとりの男の姿を認めて「!」。さっき心に生じたかもしれしれないネガティブな感情は吹き飛んだ。

「日本の取材陣が到着したらしいわ。とりあえず私が相手をしますから、あなたも、あとから出てきてくださいね」
「うーん、面倒だなぁ」
「そんなこと言わないで。そもそも、その人たちは、あなたに会うためにわざわざ日本からやってきたそうよ」
「私に会って何を聞きたいんだろうね。私はもう〝世界一貧乏な大統領〟じゃないんだけどなぁ」
「つべこべ言ってないで。会ってあげなさいよ。いいこと? わかったわね」
「……まぁ、気が向いたらね」
10分か15分かそこら前、多分、家の中では、こんな会話が交わされていたのではないだろうか。
日本人との面談を促す妻と渋る夫。
しかし、ああだこうだ言っても、結局、夫は妻の言いつけを守るのが常(本当!?)。この夫婦の場合も、夫は、「しょうがねぇなぁ」などとブツクサ言いつつも、家を出て、妻と日本人がテーブルを隔てて向き合う庭に向かった——。

引っ張って、引っ張って、引っ張ってしまいました。スミマセン。
しかし、もうおわかりかと思う。
ここで言う妻とは、ルシア・トポランスキー、そして、夫とは、我らが本命のホセ・ムヒカのことである。
そう、ついに、ついに、(元)「世界でもっとも貧しい大統領」は、私たちの前に姿を現わしたのだった!!