文/ステファン・ダントン

 

世界中で「マッチャ(MATCHA)」がブームになっている。
ペットボトル飲料としての「お茶」も各地で定着している。
「世界中に日本茶が広がりつつある」と喜んでいいのだろうか?
実はなんだかちぐはぐな日本茶ブーム。私は危険だと思っている。

 

■MATCHAと抹茶

 

 今、日本でも世界各地でも抹茶が広く飲まれている。英語圏でもMATCHAの呼び名が一般化して久しい。

 MATCHAといえば「緑色のお茶パウダーで、ケーキやドリンクに健康的な苦味を添える例のあれ」として認識している人が多いはず。

 一方、抹茶については相変わらず「伝統的で神秘的なジャパニーズスタイルのティーセレモニー」で用いられるものとして、ごくわずかなマニアが嗜むものにとどまっている。なんだかちぐはぐな「抹茶ブーム」。

 「ステファンはいつも日本茶が売れることが生産地や生産者のためなのだから、形にこだわる必要はないっていうじゃない」

 といわれるかもしれない。それはその通り。どんな形であれ日本茶が海外に広まるのは喜ばしいことだし、MATCHAが日本茶にトライするきっかけになればすばらしい。

 でも、この「抹茶ブーム」は危険だ。ちっとも日本茶生産者のためにならないばかりか、生産地を困らせる遠因にもなっている。

 

■MATCHAは誰がつくっているのか

 

 日本でつくられている荒茶(お茶の原料)の80%は煎茶、残りの20%が抹茶用だ。今、煎茶が売れない。抹茶の需要は高まっている。だからといって生産者に「今は抹茶がブームだから抹茶をつくればいいよ」というのは無責任だ。そもそも煎茶と抹茶は栽培方法も製造方法もまったくの別物なのだ。

 抹茶の原料は、碾茶(てんちゃ)といって、茶葉を摘む20日以上前から太陽光線を遮断して香りを深め、茶葉を蒸したものを揉まずに乾燥する。これを石臼で挽いたものが抹茶になる。煎茶づくりとはまったく違う工程と設備が必要になる。単独の農家が新規の設備を導入するのは難しいから、共同で抹茶専用の作業場をつくる。それでも費用の負担は大きい。

 

 一方で、大手のメーカーはコストを抑えるため中国に進出する。抹茶の製法指導、機械の導入、工場の設立も含めて中国に輸出して大規模生産を行っている。

 こうなると日本の生産者に勝ち目はない。大口の顧客が欲しいのは安い「抹茶パウダー」であって、日本製の抹茶ではないのだ。私が現在の「抹茶ブーム」をちぐはぐで危険なものだ、と感じるはこの点だ。海外でつくられた「抹茶パウダー」、ちぐはぐな「抹茶ブーム」が日本茶の生産地や生産者を疲弊させている。

 

■日本茶の輸出入量が示すこと

 

さて、2017年の緑茶の輸入量は約3万トン。このうち中国からの輸入は約1万4000トンだった。それだけでも日本からの緑茶輸出量、約4700トンの3倍ほどになる。これだけ多くの緑茶は、飲料メーカーの烏龍茶原料と抹茶パウダーの原料に使われるものがほとんどを占めるという。

 日本茶が売れないといいながら、他国から大量の茶葉を仕入れている現状。大規模・ローコスト生産の国外産緑茶を使用すれば飲料・食品メーカーは儲かるだろう。ただ、その商品が売れれば売れるほど、自国の産業を衰退させる結果になっているジレンマに、本当はみんな気づいているはずだ。

 先日、中国から来たお客様にいわれた。

 「中国人は新しいお茶を求めています。今までとは違うお茶を楽しみたい。日本茶も珍しい。香りを付けたお茶もおもしろい。必ず中国で人気が出るのになんで中国に売らないんですか?」

 

 もちろん私だって中国で売りたい。でも、放射能検査証明書の互換性がないことを理由に、日本から中国への緑茶輸出が難しい状況が続いている。

 「中国政府が規制をゆるめてくれるように日本政府がきちんと働きかけてくれたら、いつでも中国にお届けしますよ」

 こう答えるしかなかった。

 

 日本で生産された「日本茶」の輸出や販売量の拡大には、政治の力によるところが大きい。「クールジャパン」もいい。「おもてなし」もいい。文化の発信も来日客の誘致もいい。けれど、文化の源である日本の農産物や日本の農地、日本の生産者をないがしろにしては本末転倒ではないだろうか?