文/ステファン・ダントン

 

■山間の茶産地へ

 

 日本茶の味わいに魅せられた私は、多くの産地の多様なお茶を飲んできた。

 まるで実験するように。

 茶葉の色や形状、香り、味を見比べ、嗅ぎ比べ、飲み比べた。心に響いた茶があれば、その産地を訪ねて生産の現場を見るのが私の方針だ。

 

 2005年のある日に出合った静岡県川根産のお茶に私は感動した。その水色はシャルドネを思わせるゴールド、繊細かつ力強い香り、上品な旨味。

 「まさに私が思い描くワイングラスで提供する日本茶のイメージにぴったりだ」

 「このお茶を作っている人を紹介してもらえませんか?」

 どんな場所でどんな人がどんな方法で作っているのか知りたくなった私は、静岡の農協に掛け合った。すると、「川根で代々茶農家を営んでいるTさんのところへ行くといい。きっと親切にいろんなことを教えてくれるよ」と教えてくれた。

 地図を開いて場所を確認すると、川根は思いのほか東京から近い。早速、ノートとペンとちょっとした着替えをボストンバッグに詰めて車に乗り込んだ。

 富士山を横目に東名を走る。静岡インターチェンジで国道1号線に乗り換える。都市から離れるに従って、徐々に周囲からビルが消え、建物と農地の比率が反転していく様子にワクワクする。

 金谷で降りると大井川沿いの山間。樹々に囲まれた谷あいの斜面はみんな茶畑だ。曲がりくねった大井川の澄んだ緩やかな流れ、点在する素朴な木造家屋、きれいに刈り込まれた茶畑のあぜ道にときおり現れる人の影。

 「なんだかフランスのワイン産地の風景のようだ」

 私の育ったリヨンはワインでも有名だから近郊には葡萄畑も多い。親戚は農園を営んでいるから葡萄畑は見慣れていた。その記憶の風景と目の前にある茶畑の風景がリンクした。

 このときのひらめきは正しかった。その後、葡萄と茶の生産の仕方の共通性が大きいこともわかったし、だからこそワインの販売方法を日本茶に当てはめて考えるヒントにもなったが、そのことはまたいずれお話ししたい。

 

■Tさんとの出会い

 

 大井川を横目に曲がりくねった山道を登ってたどり着いたTさんの農園は標高600m。天空の茶畑とも呼ばれている。

 初めて会ったTさんは、金髪で青い目の私に少しだけ戸惑った様子だったけれど、温かく出迎えてくれた。笑い皺で縁取られた柔らかいけれど厳しさのある目、作業用のシャツから見える皺を重ねた手はたくましく、職人のものだった。

 Tさんの家の縁側でお茶をいただく。「茶畑を目の前にしながら、生産した本人が淹れたお茶を飲めるなんて格別です」、と口にする私に、Tさんはただふわっと笑った。

 言葉の少ないTさんに、私はいろんなことをたずねた。話は1日では終わらなかった。それから何度も会いにいくうちに、少しずつ打ち解けてたくさんの話をしてくれるようになったのが嬉しかった。

 

大井川
急斜面の茶畑
フランスの葡萄畑
川根の茶畑から