乗ってしまった。好奇心に負けてガイド氏の誘いに応じてしまった僕は、ペシャワールから引き返す形でアフガン国境に向かった。そして部族エリアの真っ只中にあるスマグラーバザールに潜入する。

 まず面食らったのは、強烈な視線の数々だった。「あの東洋人は何者か」という疑心暗鬼の目。アメリカの手先ではないのか。イスラム教徒ではないだろう。異物を見る目だった。その厳しい視線の中を、歩いていく。居心地の悪さ。感じる身の危険。しかし能天気なガイド氏は言うのだ。

「まずはこちら。タバコ市でーす」

 厳格なムスリムはタバコも吸わないというが、並んでいるのは目もくらむほどの種類の世界のタバコであった。コンビニのタバコ棚の数百倍はあるだろう。しっかり日本のセブンスターもあったが、これはどうも北朝鮮で密造されたものらしい。それが中国・アフガン経由でここまで運ばれてきたのだ。

 そしてご法度・アルコールの巨大市が続く。ロシア製ウオトカをはじめとして、ムスリムの破戒者は強い酒が好みか、ウイスキーやラムが多かった。

 一般的な市場と同様に、食料や家電製品、雑貨、家具などの店も所狭しと並ぶ。バンコクのウィークエンドマーケットをはるかにしのぐ規模だろう。日本のイナカにそびえるIKEAやイオンモールも比べものにならないほどデカい。その内部は複雑怪奇な迷路のごとく路地が入り乱れ、早足のガイド氏に従って右に左に歩き回っているものだから、もうひとりでは外に出られない。

 そして案内されたのは麻薬コーナーであった。どの店も精製されたハシシ(大麻樹脂)をガラスケースに堂々と並べ、肉屋か魚屋のように販売しているのであった。真っ黒な樹脂の表面になにやらウルドゥー文字が書いてあるが、ガイド氏いわく、

「あれはな、リラックスとか、グッドクォリティとか、ハッピーとか書いてある。仕入れもとのハシシ工房の、まあポリシーだな」

 ということであった。やめてほしいのに彼は「じゃあちょっと寄っていくか」とうち一軒の麻薬屋に入っていく。そこで見せられたのはアヘン、ヘロイン、コカインなど自慢の品揃え。

 あと、うちはこういうのもやっているんだが、と偽造パスポートや偽造クレジットカード、そして偽造のドル札とパキスタンルピー札の束を突きつけられて、お前は何を買ってくれるんだ、なにが欲しいんだと凄まれる。

 

平穏な市場に見えるスマグラーバザールだが、異人はむちゃくちゃに警戒される