文と写真/サラーム海上

 

マレーシア・ロスで再び現地へ

 

 2018年7月に『レインフォレストワールドミュージックフェスティバル』の取材のため、12年ぶりに3日間マレーシアを訪れた僕は、日本に帰った途端、マレーシア・ロスと呼びたい症状に襲われた。

 ラーメンではなくラクサ、炊き込みご飯ではなくナシレマッやチキンライス、チキンカレーではなくフィッシュヘッドカレー、かき氷ではなくアイスカチャンが食べたくてたまらないのだ。幸い僕の住む中央線にはマレーシア料理や東南アジア、南アジア料理のレストランが多いので、マレーシア・ロスを一時的に緩和させることは出来る。しかし、応急処置は根本的な解決には至らない。

 そこで二ヶ月後の9月の三連休に夏休みを兼ねてマレーシアの首都、クアラルンプール(以下KL)を訪れることにした。日頃から貯めていたANAのマイルを使ってプレミアムエコノミークラスの航空券は無料ゲットしたものの、時間を有効に使えるため人気の高い羽田発深夜便は既に満席で、空いていたのは成田発の午後便だった。

 9月20日の午後5時半に成田を出発し、7時間のフライトの後、23時半にKL空港に到着。そこからタクシーに乗って45分、KLの中心地ブキッビンタンの北側に位置するパーク・ロイヤル・ホテルにチェックインしたのは21日の午前1時過ぎだった。

 一人では広すぎる部屋に荷物を置いて、深夜のブキッビンタンを散歩に繰り出すと、直前に雨が降っていたようで道路は濡れ、空気はジメッとしていた。気温は28度くらいか。屋台街アロー通りから炭火や肉の焦げる匂いが漂ってきて、更にトロピカルフルーツや花の匂い、そして雨の匂いが混ざりあっている。これぞマレーシアの空気だ!

 

真夜中のアロー通り。KLを代表する屋台街だが、よく見ると観光客ばかり……

ホテルの部屋の窓からの風景。嬉しくない!

 翌日は特別な予定を入れず、KLの街歩き、食べ歩きをするつもりでいたが、日本から断りきれなかった仕事を一つ持ちこんでしまっていた。残念だが、宿にこもって仕事をするとして、その前に少しだけ遊ばせてくれ! 水泳パンツに着替え、ホテルの屋上、地上31階にあるプールにザバーンと飛び込んだ。

 プールからはKL中心部が一望出来た。地上421mの高さを持つKLタワーは間近にそびえていたが、KLのランドマークとして知られる地上451mの高さを誇るKLCCペドロナスツインタワーのほうは、宿から徒歩15分ほどの距離のはずなのに、いくつもの高層ビルに挟まれて一番上のタワー部分しか見えなかった。一時期ほどではないが、KLは今も建築ラッシュが続いているのだ。

 プールにプカプカと浮かび、ジャクージでリラックスした後は、部屋に籠もって午後まで原稿書きの仕事だ。部屋が広くて快適で、ネット回線も速かったためか、それとも火事場の馬鹿力が働いたか、仕事はススっとスムーズに進んだ。

 

パーク・ロイヤル・ホテルの屋上プールとKLタワー

屋上プールからの風景。ご覧の通り建設ラッシュ!

一人には広すぎる快適な部屋で仕事が進む! なんとアイランドキッチンまで付いてる!

 午後2時前に、部屋にルームサービスが現れたので、一旦仕事を中断し、昼飯を食べに宿の近くにある最新のショッピングモール「Pavilion」に出かけることにした。実は、宿に籠もって1日原稿書きをすると決めた時点で、KLのグルメ情報サイトを検索し、宿の近くでアッサムラクサやチリクラブが食べられる店を調べておいたのだ。

 過去に記事(『美味すぎる! 世界グルメ巡礼』に収録)で、サラワク名物のサラワクラクサについて熱い思いを綴ったが、ラクサは日本のラーメンと同じように地域によってスープや具やの種類などが異なる。この7月に刊行されたばかりの古川音さんの新刊『マレーシア 地元で愛される名物食堂』にはサラワクラクサやカレーラクサをはじめ、なんと7種類のご当地ラクサが掲載されているのだ。

 7つの町で食べられている7種類のラクサ! 映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』のインフィニティストーンはたった5つを集めるだけで良かったが、ラクサは7つ! コンプリートするのは「ドラゴンボール」を7つ集めるのと同じくらい難しいということだ!

 ともあれ、僕の知るラクサのうち最も刺激的なのがペナン州の名物料理アッサムラクサだ。アッサムとは酸っぱいという意味で、インド料理にも用いられるマメ科の植物タマリンドの果実がたっぷり使われている。しかもサバやイワシやアジなど、青魚を骨ごとタマリンドや赤唐辛子などで煮て、グズグズになった魚の身をそのままスープに用いている。鮮やかな赤〜オレンジ色の辛くて酸っぱい濃厚な潮汁に、ベトナム料理のブンとほぼ同じ、ツルっとした感触の米粉の太丸麺を入れ、トッピングはパイナップル、オイルサーディン、細切の青いパパイヤ、スペアミント、香菜などなど!

 サラワクラクサやカレーラクサは一口目こそ辛くとも、ココナッツミルクが使われているため、トータルではマイルドで落ち着く味である。それに対してアッサムラクサは、タマリンドと青魚の出汁、スペアミントなどが胃袋の中でも別々に、酸っぱい! 辛い! 美味い! とギラギラに主張し続けるのだ。冷房の当たりすぎなどで体調を崩した時には食べないほうが無難かもしれない。美味いアッサムラクサにはそのくらいの爆発力/破壊力がある。

 ところが、アッサムラクサはペナンの料理であって、KLの料理ではない。KLでラクサと言えば、ココナッツミルクたっぷりのカレーラクサが一般的だ。そんなわけでKLのグルメ情報サイトをチェックし、「パビリオン」地階の巨大フードコートを抜けた先に、一軒でマレーシア各地の料理を提供している軽食カフェがあり、そこでアッサムラクサが人気メニューとなっていることを知った。