文/原田秀司
まずはこのチラシを見ていただきたい。

モーレツにアナログである。
令和の時代に「昭和の香り」がプンプン漂っている。
なにしろ今どき「手書き」である。
しかも、モノクロであり、余計な色彩など一切、施されていない。
失礼ながらハッキリ申し上げると、このチラシが商品の売り上げにどれほどの効果があるものなのか、甚だ疑わしい。
しかし、このチラシがコロナで窮地に陥った和菓子店を救った「救世主」だと言ったら、皆さんはどう思われるだろう。
おそらく目を丸くするに違いない。
だが、実際にこのチラシは奇跡を起こしたのである。
いや、もしかしたらそれは奇跡ではなく必然だったのかもしれない。
なぜなら、この一枚のチラシには我々ビジネスマンが忘れかけていた「商売の哲学」が詰まっていたのだから。
■ものづくりへのこだわりと革命
宮崎県延岡市にある老舗和菓子店「虎彦」は昨年の令和2年に創業70年を迎えた。
元は大分県の現竹田市で江戸時代より代々続いた和菓子屋だったそうだが、祖父の時代に没落し、先代の父忠彦が戦後昭和24年に延岡の地で再興したという。一度は途絶えた和菓子店「とらや」は延岡で復活し現在の二代目の社長の上田耕市社長に引き継がれ地域とともに成長してきた。 同名の菓子店が世に多くあることから独自の屋号を求め、御代替わりの令和元年5月1日「虎屋」を先代の名からひと文字をとり「虎彦」に改定した。
主力商品は宮崎県延岡の名物でもあり、この地では400年もの歴史を持つ「破れ饅頭」。

虎彦は宮崎の伝統菓子であるこの「破れ饅頭」の味を代々、大切に受け継いで現在に至る。
特に現在の社長になってからは、「破れ饅頭」のほかにも次々と新商品の開発に成功。
自然派甘味料「ラカント」を使い糖尿病の人でも食べられるカロリー0の低糖質どら焼き「風の虎」や、「君が代」の中でも詠われている「さざれ石」をモチーフにした「日向のさざれ石」、また棹状の羊羹を一人用食べきりサイズにし楊枝を添えて美しく味わうことを提案した「羊羹 一人ひとり」はMIYAZAKI FOOD AWARD 2020で見事グランプリに輝いた。
