私たちの、長い、長い、一日が終わった。

 

   当初、午前中にムヒカと近い国会議員二人の取材予定が入っているだけだったのに、最初に会った議員さんの計らいで、急遽、ムヒカの妻のルシア・トポランスキーに話を聞けることになり、夕方、自宅を訪れると、突如、本命のムヒカが登場して私たちは興奮の渦に引きずり込まれ(って、ちょっと大袈裟ですが)、その勢いに乗って、ムヒカ邸を辞したあとも、庭先で芝刈りなどしているご近所さんらをつかまえて話を聞き、さらには、ムヒカとルシアが懇意にしている精肉店をアポなし訪問して、これまた夫妻とのエピソードを聞き出すなどして取材を重ね——。

 

 空路32時間の長旅の末にやっと辿り着いた翌日、時差ボケによる睡眠障害で疲れも抜け切れていないというのに、この働きっぷり! 

 

   しかも、およそ2週間後に訪日予定のムヒカ夫妻と日本で会う約束まで取り付けた。
   ウルグアイ始動、初日にして、この収穫!

 

ムヒカ夫妻が住む「リンコン・デル・セロ」は、首都中心部から車でおよそ30分とは思えぬほど、長閑なエリア。畑が広がる中、ところどころに小さな森があり、その合間に民家が点在する。



ムヒカの自宅近くにある友人所有のファンクションルーム(ハウス? 上の写真も)。大統領時代、公邸に住むことを拒否したムヒカは、公邸での食事会の代わりに、この場所に人を招いてバーベキューなどしてもてなし、話を聞いて、交流を深めた。言ってみれば、ここはムヒカの〝迎賓館。大統領を辞したあとも、同様のことを続けた。

ムヒカのご近所さん。親しく言葉を交わすほどの間柄ではないものの、女性は小さな食料品店で働いていて、ムヒカはよく来店するため、彼の姿はしょっちゅう見かけるそうだ。ムヒカが日本でも人気があることを伝えると、「それはすごい! 嬉しいことです」と彼女は微笑んだ。

住宅街の中にある小さな精肉店はムヒカ夫妻御用達。1993年のオープン以来、週に1度は夫妻のどちらかが来店して、たいてい、骨付き肉を買っていくという。大統領時代も変わらず、ムヒカは愛車でやって来ていたが、車の周りに近所の子どもたちが大勢集まり、店を出たムヒカは彼らの歓声に包まれたらしい。




「話好きのペペは、来店すると10分くらいは立ち話をしていくよ。政治的な話は一切なし。いわゆる世間話ってやつですね」とは、精肉店店主のロベルトさん。ムヒカが大統領に就任した際には、巨大なトルタフリッタ(ウルグアイ版の揚げパン)を作り、大人から子どもまで近所の有志が集まり、行列をなしてムヒカの家まで持って行って、みんなでお祝いをしたという。

精肉店のショウケースには、チーズやハムも並んでいた。また、棚には、〝いかにも家で瓶詰めしました〟的なハチミツが並んでいて、聞けば、この周辺で採れたもの。「ムヒカの農園に咲く花のミツも入っているかもしれませんね」という店主の言葉に沸き、私たちは、そのハチミツを購入した(写真がなくてスミマセン)。

ご近所さんをつかまえて話を聞いたり、ムヒカ夫妻御用達の精肉店をアポなしで訪問したりしているうちに、陽はすっかり沈みかけていた。

 

   私とIさんは、身体はくたびれ果てているはずだった(少なくとも私は、身体はもちろん、朝から頭をフル回転にしていたせいでブドウ糖が枯渇して脳までヘロヘロだった)。しかし、テンションだけは妙に高く、ホテルに戻ってひと息つく間もなく、私たちは、祝杯をあげるために街へと繰り出した。