文/光瀬憲子
『台湾一周!! 途中下車、美味しい旅』(双葉文庫)の取材写真を通して旅行気分を味わっていただくシリーズ。旅もいよいよ終盤。今回は時計回りで台東から高雄へ向かう途中に寄り道した街の話。
■屏東県、潮州

台湾最南端の県、屏東(ピンドン)。台湾有数のリゾート地、墾丁もこの県に属する。九州ほどの狭い島なのに、北と南ではまったく気候が異なるのが台湾のおもしろいところ。列車の旅をしていると天候や気候のダイナミックな変化を感じることができる。台湾南部の街は11月も終わりだというのに照りつける太陽が眩しい。
潮州駅は鄙びた駅舎を想像していたのだが、波をモチーフにした斬新なデザインだった。駅前に植えられたヤシの木と、むわっとする空気。台東では感じられなかった夏がそこにはあった。

初めて訪れた潮州。予備知識は何もなく、ふらりと訪れた街だ。こんなふうに列車の旅をすることに子供の頃からあこがれていた。市街に入るとそこには80年代で時を止めたままの町並みが待っていた。何十年もの歴史を感じせるかき氷店の看板。南国らしく開け放たれた店内には、古い小学校にあるような木の椅子が並んでいる。潮州駅舎こそ洗練されていたが、取り残され感がすごい。
■からだにやさしい(?)かき氷

潮州で降り立った最大の理由はこのかき氷。台湾をぐるりと一周すると、さまざまな名物グルメに出合う。
潮州名物の「焼冷冰(シャオレンビン)」と呼ばれる温かいかき氷は、常夏に近いこの街で涼を取るためのかき氷が、おそらく体の芯までも冷やしてしまわないように編み出されたもの。冷たいかき氷の中に温かく煮込まれたスイーツが閉じ込めてあり、食べ終わったとき渇きを癒し、でも内臓を冷やし過ぎないように考えられている。

身体に優しい伝統スイーツは、老若男女を問わず誰からも愛される。潮州の「焼冷冰」もそうだが、豆花や花生湯(ピーナッツ汁粉)など、私がこよなく愛する台湾スイーツの店では、しばしば中高年の1人スイーツ男性や、若いスイーツ男子のグループを見かける。
ピザやハンバーガーが定着しても台湾屋台の人気が衰えないように、洋菓子や和菓子があふれても、台湾から伝統スイーツは消えないだろう。台湾では、男性の1人スイーツは、1人で牛丼を食べるよりもずっと当たり前のことなのだ。
■パパイヤミルクは大人の味

初めて「パパイヤミルク」なるものの話を聞いたのは父親からだった。70年代から仕事で台湾と日本を往来していた父は、「ねっとりしていて独特の甘みがあるミルクシェイク」と、パパイヤミルクのことを語り、小学生だった私は、この世のものとは思えないほど美味しいのだろうと想像していた。
だが、その後、初めて日本でパパイヤを食べて、クセのある香りにがっかりした記憶がある。子供だった私のパパイヤミルクの夢は打ちひしがれたが、その後、台湾に渡り南国のパパイヤミルクを口にして、当時の父親の言葉がよみがえった。濃厚な甘みとミルク、そしてなんとも言えない香り。もしかしたらパパイヤミルクというのは、大人の飲み物なのかもしれない。あの人を惑わせる香りは、子供には理解できない大人のわがままのような気がしてならない。
(つづく)
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「台湾の人情食堂」vol.109 (2020.6.26)
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