高校時代から通った名古屋市今池の「呑助飯店」の餃子は、すでに食いしん坊界隈では有名だと思うが ━ここの重油のような色と光沢をたたえるスープ、焼いた豚骨を炊く独特の"豚骨臭"を放つラーメンのほうが有名かもしれない━ この店の餃子がたまらなく好きだ。通学路にあったせいもあり、ここの餃子を食べすぎたせいなのか、「呑助飯店」の餃子以上に唯一無二の美味さとそれ以来(何十年経つんだ)、出会ったことがない。

 いっとき、ぼくの周囲の「呑助飯店」中毒者の間で「餃子の中身は何だろう論争」が沸騰していたのだが、今もってわからない。まさに一子相伝的なレシピ。たぶん、味わいとにおいからして、タマネギとニンニクをすりつぶしたものにラードを練り込んでいるのではないかと思うのだが、とにかく透明に近い真っ白なのだ。小ぶりのそれを使いこんだ鉄鍋にしきつめてカリカリに焼き上げる。今でも一人で2~3人前はいける自信がある。何年も前だが、東京から同年代の友人を連れて行ったら、その友人は一人で8人前平らげていた。

 東京に出てからも名古屋に帰るたびに、ここを創業(1950年)したお父さんのほうが切り盛りしていた「支店」のほうに行っていた。こちらには白乾児(パイカル)のような度数の高い中国の蒸留酒などがあって、それに合わせて餃子を味わっていた。酒を頼むとお通しがでる。白菜キムチを細かく刻んだようなものが豆皿大ぐらの器に盛られてくる。これも美味しい。特別におかわりをお願いしたこともある。

 やがてお父さんが亡くなったと聞いた。老朽化した建物も壊されていた。いま営業しているのは、今池のダイエー通りに面した、息子さんとお母さんが切り盛りする「本店」のほうだ。ここでは餃子を注文するとき、「三人前」と言わずに「餃子三つ」と言う。お父さんやお母さんと客のやり取りを聞いていて、十代の ぼくはそう覚えた。

 ああ、しばらく行ってないなあ。書いているとつばがわきあがってきた。冷えたビールと、あの餃子を何人か前か、ペロっといきたい。今は、〆に真っ黒なスープのラーメンはキツイかなあ。「呑助飯店」の餃子は、ぼくの青春時代と今をつなげてくれるラードでよく滑るレールのような存在なんだな。