■合法なのにアヤシさもぷんぷん漂うマリファナショップ

 

 その日は午後から、ダニエルの引率で「ムヒカゆかりのスポット」を見て回ることになっていた。
   その前に、ムヒカとは関係ないけれど、観光客の見どころとしてはテッパンのプエルト市場(メルカド・デル・プエルト)を案内してもらい、その後、車を停めたところまで、みんなでぷらぷら歩いているとき、あるショップを指差してダニエルが言った。

 

 「あれは、マリファナのショップですね」

 

 その店の2階の窓には植物柄のフラッグが掲げられていたが、言われてみると、植物はまさしく大麻草の葉っぱのようだった。

 

マリファナショップ。窓には堂々と(!)マリファナの葉っぱのフラッグが掲げられている。大丈夫です。ウルグアイでは、マリファナの使用・栽培・販売は合法ですから。

 

 「本当!? じゃあ、ちょっと入ってみたいんだけど、いいかな」

 

 こう言って私が足を止めたのは、もちろん、マリファナが買いたかったわけでも、吸いたかったわけでもない。

 じゃあ、なぜ店に興味を持ったかというと、マリファナは、ムヒカと大いに関係があるからだ。

 

 ウルグアイは、世界で初めて大麻(マリファナ)の使用・栽培・販売を合法化した国である。

 合法化することで麻薬密売人の収入を絶って国から締め出すことができる。

    国が管理して品質が保証された大麻を流通させれば、国民の安全面、健康面にも良い効果が期待できる。
 このような理由から、大麻合法化案がウルグアイの議会で承認されたのだが、そのとき大統領だったのが、ほかでもないホセ・ムヒカ。大統領時代にムヒカが行なった政策は数々あれど、大麻の合法化は、彼が成し遂げた政策の代表的なものなのだ。

 

 ということで、たまたま前を通りかかったマリファナショップは、ムヒカゆかりのスポットと言えなくもないわけで、どんなものか見ておこうと思ったのだった。

 

 「彼はマリファナを吸うんだって」

 

 私がショップに興味を示していると、ダニエルが、チャーターした車のドライバーさんを見ながら言った(このとき、ドライバーさんも一緒に散策していた)。

 

 「そうなんだ。じゃあ、パスみたいなの持ってるんだよね。見せて、見せて!」

 

 私の言葉をダニエルがスペイン語にして伝えると、ドライバーさんは、ニヤニヤしながら意味深な目付きで何か言った。多分、「えっ、あなたも吸いたいの? そうなの?」とか、そんな感じの言葉だったんじゃないかと思う。

 

 だから、違いますって。

 ムヒカ本第一弾を書くときに私が調べていたところでは、大麻の購入量や栽培量(購入か栽培か、どちらか一方しか選べない)には制限があり、いずれにしても、大麻ユーザーとなるためには、国の関係機関にあらかじめ登録しておかなければならない。

 であるならば、きっと登録証のようなものが存在するはずで、ドライバーさんには、それを見せて欲しかったのだ。

 彼の、意味ありげな薄ら笑い。「私の分も買って、買って!」とねだっているとでも思ったのか……。

 んなわけ、あるわけないじゃないですか。

 そもそも、ウルグアイで大麻の使用が合法的に認められているのは国民だけだ。観光客には認められていないし、旅人が安易に買ったりできないようにするためにも、国民にユーザー登録を義務付けているのである。

 

   ちょっとドキドキしながら足を踏み入れた店内は、なんとも不思議な空間だった。 

 

 石畳の道に面したエントランスをくぐって細い階段を登ると、6畳間が縦にふたつ連なったくらいのスペースが広がっていた。

 それほど広くはない店内。入ってすぐのところには、マリファナなのか、他の種類なのかわからないけれど、小包装の、いわゆる〝ハーブ〟と思しきものや、それらを吸うための器具などが並べられたショウケースがあり、その隣のハンガーラックには、大麻草の絵柄をプリントしたカラフルなTシャツがズラリと掛かっていた。

 ここだけ見ると、アパレルも扱っているオシャレな雑貨屋な感じだが、奥の窓際にはテーブルやソファやイスが置かれていて、雑貨も扱っているカフェみたいでもある。

 

 そんな店内は、フツーの若者でまぁまぁ賑わっていて、健やかな空気が漂っているようにも思えたが、別のほうに目をやると、黒いシートで覆われた一角があり、一部シートがめくられていて、中では、人の背丈の半分くらいの植物が育っていた。

 大麻草だった。

 この店のように、マリファナを栽培する店は「grow shop」と言って、モンテビデオにはちょこちょこ存在するらしく、非合法ではないようだが、草に当てたライトがシートに反射してゴールドに輝き、なんだかアヤシイ雰囲気。ここでは合法だとしても、日本では違法なことが目の前で展開されている、その現実が、余計にそう感じさせてしまうのだろうか……。

 

ショウケースには、吸引グッズなどが並べられている。
大麻草をデザインした洋服なども売られていた。男性も女性も店のスタッフ。
店の奥の窓際には、テーブルやソファが置かれている。「ここでリラックスして吸っていいよ」ってこと !?
なんとソファのファブリックの柄もマリファナの葉っぱ!
実は、私たちがウルグアイを訪れたとき、マリファナ合法化の法案は通っていたものの、販売の準備が整っておらず、まだ合法的な販売には至っていなかった。その代わり、栽培だけは早くから合法化が実行に移され、家で栽培をする人のために、「grow shop」と呼ばれる、マリファナ栽培関連製品を提供する店がお目見えしていた。この店がそれ。店の一角でマリファナが栽培されているのは、「こんなふうに育てますよ〜」というサンプルか!? ちなみに、マリファナの販売が開始されたのは2017年に入ってから(許可を持っている薬局でのみ)。

 

   この、健全と不健全とを併せ持ったような空間(あくまで主観、私が勝手に言っているだけです)には、ムヒカの本も飾られていた。

 大統領に就任してからも、退任してからも、本国ウルグアイはもちろん、世界中でムヒカについて書かれた本が出版されているが、その一部が、店内に置かれていたのだ。

 大麻を合法化したムヒカは、言ってみれば、こうした店の生みの親!? 本のディスプレイは、創始者の写真が飾られるようなものなのか。

 

大統領時代にマリファナを合法化したムヒカは、こうしたショップにとっては「創業者」のようなもの? ムヒカについて書かれた本がディスプレイされていた。

 そう言えば、『ハッパGoGo 大統領極秘司令』というウルグアイとアメリカの合作映画があった(日本では2019年公開)。

   大麻の合法化という世界初の政策から生じる問題を解決するために、政府からミッションを課せられた母と息子の奮闘を痛快に描いたもので、なんとムヒカ自身も本人役で友情出演している作品だ。フィクションだし、コメディだし、ふざけた邦題(命名した方、スミマセン)なんだけど、当たらずといえども遠からずで、観れば、ムヒカとマリファナの関係がよくわかると思う。