■街にムヒカグッズが……ない! 盛者必衰のことわりか!?

 

 その後も、私たちは、インタビュー取材の合間にムヒカゆかりの場所を訪れた。

 例えばウルグアイの歴代大統領の住まい。ムヒカが大統領時代に住むことを拒んだという、あの公邸だ。ぜひ見ておきたいと思っていたのだが、取材に行く途中で近くを通り掛かったため、車を停めて、外から見させていただいた。

 例えば、ムヒカが銃撃戦の末に逮捕されたバー。

 既述したように、ムヒカは何度も逮捕されているが、一度などは、警官隊から6発の銃弾を受けて生死の境をさまよった。金融機関を襲撃する計画を練っているとき、密告によって警察に包囲され、ムヒカが持っていた銃で抵抗したために打ち合いになったのだ。

 舞台となったバー『La Via』は、21世紀に入ってからも同名で存続し、のちに名前を『VIA BAR』に変えて営業を続けていたというが、私たちが訪れたときには、改装中なのかどうか、店は閉まり、窓から中をのぞくと、イスやテーブルが取っ払われ、床には工具のようなものが乱雑に置きっぱなしになっていた。

 

モンテビデオ中心部にある大統領公邸。ムヒカは、ここに住むことを拒んで、郊外の農園内にある質素な家に住むことを選んだ。私たちが訪れたとき、タバレ・バスケスが第41代大統領を務めていたが、彼もまた公邸には住まず、元の自分の家で暮らしていたため、公邸は主不在の状態だった。

ムヒカとルシアが所属する派閥「609」と「LUCIA 」 の文字が確認できる壁面。

街角で「FA」とか「609」などの文字を見ると、つい立ち止まって写真をパシャ。「FA」というのは、ムヒカ所属の政党「Frente Amplio(拡大戦線)」のことで「609」は、ムヒカの派閥。「FA」が「自民党」で「609」が「岸田派」とか、そんな感じ。写真は、「609」の基本委員会の事務所の壁面。歩いていて、たまたま見つけた。

上の事務所の入り口上には、ムヒカとタバレ・バスケス(ムヒカの前と後に大統領を務めた)の顔写真入りのポスターが。

 

 モンテビデオ滞在中は、車に乗っていても、歩いていても、ときには意識的に、ときには自分でも気づかぬうちに、私は〝ムヒカ〟を探し求めていた。

 街中で「José Mujica」「pepe」といった文字や、ムヒカの顔写真入りのポスターなどを見かけると、歩いているときなら、つい立ち止まってしまったし、車で移動中だったとしても、ダニエルや通訳の森さんに

 「あれは何?」とたずねたりしていた。

 しかし、そうした機会はそう多くはなく、ちょっと拍子抜けしていたのも事実。

 

 キューバの首都ハバナでは、国の英雄であるチェ・ゲバラの写真やイラストが至るところで見られる。それと一緒にしたらキューバの人に怒られるかもしれないけれど、ちょうどそんな感じで、モンテビデオの街にはムヒカの名前や顔があふれている、と、私は想像していたのだが、まったく期待外れだった。

 大統領就任中は、あちこちでムヒカグッズが売られていたとも聞いていた。

 実は、それらをゲットすることも密かに楽しみにしていたというのに、グッズにもほとんどお目にかかることはなく。

 私たちが訪れたときには、ムヒカが大統領職を退いて一年が経っていた。しかし、そうは言っても、あれだけ世界を沸かせた人である。ゲバラほどではないにしても、もうちょっとは……。

 

 「えっ!? なんで今さらムヒカなんですか?」

 

 私が彼を取材するために日本からやって来たと知って、驚いたような、呆れたような反応を示した現地の人もいた。

 その頃、日本におけるムヒカ人気は爆発前夜だった。にもかかわらず、本国では、すっかり過去の人になっていたのか。

 

 祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰のことわりをあらわす——。

 

 むかしむかしに暗記した平家物語の一部が、不思議と、スラスラ頭に浮かんだ。

 しかし、それでも私は、〝ムヒカ〟を求めて、モンテビデの街を、あるときはキョロキョロし、あるときは東奔西走したのであった。

 その甲斐は……。

 はい、少しはあったようで。

 

ウルグアイ版ゴールデンウイークが終わって、やっとオープンした土産物店。そこで、ついにムヒカのTシャツを発見! もっとたくさんあるかと思ったのに、「Uruguay」とか「Montevideo」などと書かれた、〝the・お土産〟Tシャツの中に混ざって、少しあっただけ。

土産物店の窓際にはマグカップがズラリ。さて、ムヒカの絵柄は見つかるでしょうか?
土産物店で見つけた〝アンディ・ウォーホールもどき〟のマグカップ。帰路に経由したブエノスアイレス の空港で、チェ・ゲバラが同じようにデザインされたポスターを買った。〝アンディ・ウォーホールもどき〟は、あのとき、あの界隈で流行っていたのか!?

ダニエルが〝裏原宿の雑貨屋さん〟的な、オシャレで個性的なショップを見つけてきてくれた。そこで買ったチャーム(?)は、ムヒカの大統領就任時の格好をモチーフにしている感じ。
ムヒカが愛車に愛犬を乗せているグッズは、チャームと同じショップで買ったナプキンスタンド(?)。私は、郵便物のフォルダーに使っている。
マグネット。これは先の雑貨屋とは別の、でも、やっぱり、小洒落た雑貨を扱うショップで買った。チェ・ゲバラやミック・ジャガーやジョン・レノンやマイケル・ジャクソンなど錚々たるメンツの中に紛れていた。

ウルグアイのお土産の中で、私の一番のお気に入りがこのTシャツ。ムヒカが、彼が尊敬し、影響を受けたチェ・ゲバラの格好をしているのだけれど、注意して見ると、ゲバラの帽子なら星の部分が、こっちはマリファナの葉っぱ。実によく考えられている!! 〝裏原宿の雑貨屋さん〟で購入。
世界でもっとも貧しい大統領ホセ・ムヒカ 日本人へ贈る言葉
世界でもっとも貧しい大統領ホセ・ムヒカ 日本人へ贈る言葉

2015年7月に発売し、ベストセラーとなった『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉』に続く第2弾。
今や、その生き方や言葉は人類の財産になろうとしているウルグアイの元大統領ホセ・ムヒカ氏。今春、日本を訪れたムヒカ氏は日本でもさらに注目されましたが、本書は、ウルグアイでのムヒカ氏本人への単独取材も含め、現在の日本人の心に響く名言を集めたものです。

信念の女、ルシア・トポランスキー ホセ・ムヒカ夫人 激動の人生
信念の女、ルシア・トポランスキー ホセ・ムヒカ夫人 激動の人生

“世界でもっとも貧しい大統領"ウルグアイ第40代大統領ホセ・ムヒカ。その妻は、国会議員のルシア・トポランスキー。ムヒカに寄り添い、いつも穏やかな微笑みを浮かべる彼女だが、かつてはゲリラ戦士だった。裕福な家庭の娘として育った美少女が、なぜ革命家になり、どう今に至るのか。信念の女性ールシアの波乱万丈な人生を追った一冊!

世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉
世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉

退任したホセ・ムヒカ前ウルグアイ大統領が、2012年のリオ会議での感動的なスピーチを中心に「世界一貧しい大統領」として日本でもブームとなっています。本書は、冒頭にそのスピーチ全文を掲載。そして彼の他の演説やインタビューの中から名言をピックアップして、
ホセ・ムヒカ氏の人となりと思想、生き方をわかりやすく解説します。


ウルグアイはブラジルとアルゼンチンに挟まれた小国(面積は日本の約半分)。首都モンテビデオからアルゼンチンの首都ブエノスアイレスまでは飛行機で1時間弱の近さだが、両都市を挟むラ・プラタ河をフェリーで行く方法もあり、高速艇なら3時間ほどで行くことができる。