文/チョン・ウンスク

 

『美味しい韓国 ほろ酔い紀行』で、東海岸を取材したときの写真を見ながら、平昌→束草→江陵→三陟と南下してきたが、今回は予定を変更して、タッチの差で新刊への掲載が間に合わなかったソウルの新名所をいくつか紹介しよう。

 ソウルの街は、西洋的な洗練とアジア的な猥雑さがまだらになっているところが魅力だが、最近はニュートロ(new retrospectiveの略)という言葉に象徴されるように、両者が融合する現象が起きている。今回取り上げるのは、そんなソウルのダイナミックな変化を感じさせるスポットだ。

 

石油タンクがアートやビジネスの多目的空間に変身 

 

1976年から1978年にかけて建てられた5つのタンクから成る『麻浦文化備蓄基地』。写真は内部にカフェや図書館などを備えたタンク6

 石油タンクというものを近くでまじまじと観たことはない。ましてや中に入ったことなどあるはずもない。

『麻浦(マポ)文化備蓄基地』は、韓国と日本が共催した2002ワールドカップの直前まで稼働していた石油タンク群を、公演やコンベンションのスペースとして再生したものだ。

 

前身の石油タンク群は2002年に閉鎖されてから10年以上放置されていたが、2013年に市民のアイデアが公募され、文化施設に生まれ変わることになった
それ自体が芸術作品のような屋外ステージと客席

 廃墟芸術というと、古い建物が朽ち果てるままになっているところに美を見出すものだが、この施設は石油ではなく文化を備蓄するというだけに、もっと前向きである。

 能書きは無用。文化的成熟が進んだ日本のみなさんも、その豊かな感性で「タンク美」を発見してほしい。

 

タンク6のカフェの上階にある広い回廊は、ときには公演会場になる

回廊をのぼるとスタイリッシュな図書館にたどり着く

*『麻浦文化備蓄基地』 麻浦区繒山路87 
http://parks.seoul.go.kr/template/sub/culturetank.do

 

ゴミの島が緑豊かな癒しの公園に変身 

 

『ハヌル公園』の漢江寄りにある「希望展望台」。2009年にソウルを都市ギャラリー化するプロジェクトのひとつとして作られた芸術作品。段差をベンチ代わりに休憩することもできる。底の部分をステージにしたミニコンサートも可能

 日本の東京では皮肉にも"夢の島"と名付けられたゴミの島が韓国にもあった。ソウル西部の漢江沿いに位置する蘭芝島(ナンジド)である。



 8.5トンのトラック1300万台分(!)のゴミがうず高く積まれたこの島は、1990年代半ばまでは汚染された土地からメタンガスが流れ出る、いわゆる嫌悪施設だった。しかし、1996年から浄化事業が開始され、20年がかりで緑豊かな『ハヌル(空)公園』に生まれ変わった。

デートコースとしても人気がある『ハヌル公園』。日本の囃し歌「♪誰かさんと誰かさんが麦畑」の歌詞を思い出してしまった

 環境を犠牲にして推し進められた高度経済成長に対する罪滅ぼし的な公園だ。この20数年間でドラスティックな変化を遂げ、別の都市のようになったソウルは、過去の姿を想像しながら歩くのが楽しいところなのだが、この公園だけは別だ。どれだけ往時を想像させないかが真価である。『ハヌル公園』で2時間ほど過ごしたが、幸い視覚的にも嗅覚的にもゴミの島の片鱗はうかがえなかった。

 

ヒョウタン、カボチャ、ヘチマなど、さまざまな植物が豊かに実る

 

 鍾路3街(チョンノサムガ)のような混沌の地でソジュやマッコリを飲み過ぎた翌朝は、こんな公園で酔い覚ましの散歩をするといいだろう。

 

北東方向にはデジタルメディアシティの街並みが

 

南東方向には汝矣島(ヨイド)付近の高層ビル群が見渡せる

*『ハヌル公園』 麻浦区ハヌル公園路95 
http://parks.seoul.go.kr/template/sub/worldcuppark.do

 

再開発予定地が「街ごと博物館」に変身 

 

慶熙宮(キョンヒグン)の南側に接する『敦義門博物館村』の俯瞰写真。最寄りは西大門駅4番出入口

 ソウルの変化には敏感でいたつもりだったが、この『敦義門(トンウィムン)博物館村』はノーマークだった。05番マウルバス(西大門駅発着)が脇を走っているのを見て、やっと自分がどこにいるのかわかったくらいである。

 

西大門駅の3番出入口前から05番マウルバス(住宅街などの短い区間を走る路線バス)に乗り、車内から慶熙宮や社稷(サジク)公園周辺を見物してから、「江北サムソン病院」停留所で降りれば、『敦義門博物館村』はすぐ目の前

 この一帯は朝鮮王朝時代の城郭を結ぶ4大門のうち唯一現存しない(日本植民地時代に撤去、近年の復元計画も白紙に)敦義門(西大門)のお膝元にある。

 

日本植民地時代の敦義門(西大門)の姿

 解放後は学習塾街→食堂街と変化し、2003年以降、公園建設予定地となった。しかし、2015年に街並みを保存する方向に政策が変更され、2018年の春、『敦義門博物館村』として開放された。

 

かつてあった理容院の外観

理容院の内部

 博物館村として整備し過ぎの感もあり、古い建物の自然な枯れ具合いが失われてしまっているのが残念だったが、ソウル旧市街の各所で再開発のかけ声ばかりが聞こえてくる昨今、古い町並みが好きな者にとっては歓迎すべき政策転換である。日本からの旅行者はここを見学することをきっかけに、ソウルのあちこちに残る庶民の息吹を感じさせる場所に興味をもってもらえたら、うれしく思う。

 

再現された映画館。手描きの映画看板は左が1964年公開の『裸足の青春』、右が1977年公開の『高校ヤルゲ』。『敦義門博物館村』内には実際に昔の映画を上映する施設もある。取材時は1963年公開の『帰らざる海兵』が上映されていた

路地裏の壁画には再開発で思い出の地を失い、悲しみに暮れる男性が描かれている

 

公演場のあるマウル広場。夏休み中だったので子供の姿が目立っていた

 

街ごと博物館にしているので、一見、ふつうの生活圏のように見える『敦義門博物館村』

*『敦義門博物館村』鍾路区松月キル14-3 
http://dmvillage.info/

 

老朽化した高架自動車道がペデストリアンデッキに変身

 

雨が降ったら降ったでまた風情がある『ソウル路7017』。向こうに見えるのはライトアップされた旧ソウル駅舎。日本植民地時代の建築物だ

 旧ソウル駅舎の西側にある万里洞(マンリドン)と、東側の南大門市場の南端(地下鉄4号線会賢駅付近)を結ぶ全長約1キロのソウル駅高架道路がペデストリアンデッキ(高架遊歩道)『ソウル路7017』に生まれ変わってから2年半が過ぎた。

 

旧ソウル駅舎の向かい側にあるソウル・スクエアビルのメディアアートも見もの

 

自動車道としての役目を終える寸前のソウル駅高架道路の姿(2015年5月撮影)

『ソウル路7017』については、その歴史も含め、本連載#39で詳しく書いたので省略するが、路地裏歩きが好きな日本の旅行者には、西側の起点である万里洞から、その西北方向にある忠正路駅辺りまで散歩することをおすすめしたい。この辺りではソウル駅のすぐ近くとは思えないような生活感のある街並みと出合えるからだ。

 韓国最古のアパートといわれる忠正アパート(1930年~)や韓国初の住商複合アパートといわれる聖ヨセフアパート(1971年~)など、今も人が住んでいて本物の積年が感じられる建物を愛で、路地をくまなく歩き、大人の「バエル」1枚を狙ってもらいたい。


*『ソウル路7017』http://seoullo7017.seoul.go.kr/SSF/GLO/JPN/M000.do

*取材協力

ソウル特別市(市民疎通企画館、都市ブランド担当館)

デジタル朝鮮日報

(つづく)

「韓国の旅と酒場とグルメ横丁」vol.91 (2019.9.6)

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