文と写真・サラーム海上

 

アビジャン舞台芸術祭『MASA』に誘われた

 「来年の3月にアフリカに来ないか? アフリカ中の新しい音楽やダンスのアーティストが出演するフェスティバルの主催者に君のことを紹介しておくから」

 2019年10月下旬に訪れたノルウェー・オスロの音楽祭「OSLO WORLD」(記事参照)で音楽プログラムだけでなく、レクチャーやディベートと朝から晩まで6日間ずっと一緒だったロシア人の同業者のサシャから最終日にそう誘われた。サシャはロシア人らしく人懐っこい顔つきと熊のような巨体の男性。年は聞いていないが、僕と同じくらい、50代前半くらいに見える。若い頃にモスクワを離れ、ドイツ、フランスでの生活を経て、15年ほど前から西アフリカを拠点にし、現在は住所不定のままイギリスBBCやその他のヨーロッパのテレビやラジオ局のためにアフリカ文化のコーディネーターをしている。

 

オスロで6日間一緒に過ごした西アフリカ住所不定のロシア人音楽ジャーナリストのサシャと

Oslo World では音楽プログラムのほか、毎日、世界中から集まった60名以上の音楽関係者とディベートやレクチャーが開かれた

 

 アフリカかぁ……アフリカ音楽はもちろん大好きだし、これまで北アフリカのモロッコエジプトやチュニジアは何度も訪れてはいた。しかし、サハラ砂漠以南のいわば本当のアフリカはまだ訪れたことがなかった。それに正直言うと、行こうと考えたこともなかった。入国のためのビザを取るのすら大変そうだし、未舗装の道をオンボロバスで何時間も移動するのも嫌だし、何よりも、僕が音楽と同じくらい大好きな美味い飯がなさそうだし……。う~、この場で何と返事をしたらいいのか……。

 「もちろん、行きたいよ……。でも一体、アフリカのどこ?」

 「コートジボワールのアビジャンだよ。二年に一度のアビジャン舞台芸術祭『MASA』が2020年の3月に開催されるんだよ。主催者のヤクバ・コナテは僕の古い友人だし、ヨーロッパやアメリカからはジャーナリストが沢山来るんだけど、日本からの音楽ジャーナリストが来てくれたら彼も喜ぶよ」

 コートジボワール! フランス語で「象牙海岸」を意味するこの西アフリカの国について、僕が知っている事は片手で数えられるほど。最大の都市アビジャンには西アフリカ諸国や内陸国の生産品を世界に輸出する西アフリカ最大級のアビジャン港があること、コートジボワールは世界一のカカオ産出国で、コーヒーや天然ゴム、更に原油も産出すること、「西アフリカの優等生」と言われる経済成長国であることなどだ。しかし、音楽となると僕はこの国についてほとんど知らない。

 アフリカ大陸で音楽が盛んな国と言うと、西アフリカではマリやセネガル、ナイジェリアにガーナ。中央アフリカならコンゴ。南なら南アフリカやジンバブエ。東ならエチオピア、ケニア、タンザニアの名前がすぐに挙がる。僕がコートジボワールの音楽で知っていることと言えば、近年「クペ・デカレ」と言うヒップホップ系のダンス音楽が若者の間で大流行しているのと、1980年代初頭からフランス語圏で活躍してきたレゲエ歌手アルファ・ブロンディがコートジボワール人であること、この2つくらいだ……。

 「MASAにはアフリカ全土のアーティストが集まるんだ。世界中で知られているような大御所は少ないけれど、MASAに出演して、その後ワールドワイドにデビューするアーティストも多いんだ。つまり、未来のアフリカ音楽のアーティストが観られるんだよ。それにアフリカ旅行は思っているほど大変じゃないよ。清潔度はちょっと前のカンボジアミャンマーラオスインドの田舎と同じくらい。言葉もフランス語が話せるサラームなら全然問題ないよ。今回を逃すと次回は2022年と随分先になってしまうから、ぜひ考えてくれよ」

 未来のアフリカ音楽を堪能出来る二年に一度のチャンス? そう言われると、今まで考えたこともなかった西アフリカへの取材旅行がリアルに思えてきた。

 

10月末のオスロ、毎朝摂氏零度近く、真冬が始まった
オスロと言えばこれ! ムンクの「叫び」。幾つものバージョンがあり、こちらはムンク美術館所蔵のもの
もうひとつオスロ名物といえば、早朝にオスロ湾に浮かぶサウナボートで温まり、フィヨルドにそのままダイブ! 水温は摂氏四度!

一方、二週間後、11月下旬のイスラエル。テルアビブのビーチでは泳いでいる人も目立った。冬から夏に逆戻り

 11月初旬にオスロから帰国し、二週間後に今度はイスラエルでの一週間の出張をこなし、11月下旬に東京の自宅に落ち着いた。師走に入り、それまで溜まっていた仕事を片付けた頃、サシャから「MASAに来る気になったか?」と連絡が来た。