残暑というより、「いつまでも終わらない夏」という印象の暑さが続いていたローマだが、10月も中旬に入ってやっと涼しくなってきた。いや、涼しいというより寒い。真夏から一気に冬になったような寒さに、衣替えが追いついていない状況である。つい先日まで、「いつまでこの暑さが続くのかしらね」とうんざり気味で話していた近所のおばさんも、昨日は「寒くて羽毛布団を出した」と言っていた。気候変動で四季の移り変わりの速度がアップし、春秋の期間が年々短くなっているのは残念なことだ。
 とはいえ、暑いのが大の苦手な私にとっては待ち望んでいた気候の到来だ。何より夜の時間が長くなるのが嬉しい。家でぬくぬくと温まりながら思う存分読書を楽しんだり、夕食後にふらっと映画を見に行ったり、あちこちで開催される食イベントに出かけたり。グリーンパスやマスク着用の義務は残っているものの、それを除けばコロナ禍以前の日常が戻ってきたように感じる。

 

 ヴェネツィア映画祭が華やかに幕を閉じた直後から、さまざまな新作映画が派手に宣伝され始め、映画館に行きたい!という気持ちが高まってきた。映画祭でも高い評価を得ていた『DUNE砂の惑星』が近所の映画館で上映されると知って、これは行かねばと早速チケットを購入した。    
 まだまだコロナ禍の規制が残っている映画館は、チケットは全てオンラインで購入、館内は収容人数の50%までというルールが今も適用されている。複数の人数分のチケットを買う時には、同伴者との関係を明記する項目まである。要するに、同居している家族やカップルで行くのなら隣同士の席を用意してくれるが、それ以外は両隣の席を空けて距離を取るためらしい。
 およそ2年ぶりに出かけた映画館の入り口に立って、ここがコロナ禍を生き残ってくれたことにまず感謝した。映画産業は、コロナ禍でかなりの痛手を受けた業界である。大企業が運営する郊外の巨大シネコンなら心配も少ないだろうが、住宅街の一角にひっそりと建っている小さな映画館は軒並み閉館してしまい、我々の家の近所にあるこの映画館も存続が危ぶまれていたのだ。

 

集合住宅の1階部分にある映画館。ローマの住宅街にはこんな映画館がたくさんあったのだが、コロナ禍で多くの小さな映画館が閉館してしまったことはとても残念だ。

 イタリア人にとって、映画は演劇と並んで欠かせない娯楽の一つで、家の近所にふらっと入れる小さな映画館があることは、イタリアの暮らしの文化度を底上げしていると常々思っていた。おじいちゃん、おばあちゃんが孫と連れ立って、夕食後に同じ映画を観に行く。そんな生活環境があると、世代を超えた会話のテーマがどんどん増えるし、同じ作品を観ても人生経験によって全く異なる感想を聞き合うことで、お互いをより良く理解し合えるようになる。一本の映画には、そんな大切な役割もあるのだと、イタリアで暮らすようになって初めて知った。

 

 さて、久しぶりに興奮しながら足を踏み入れた映画館は、思っていたよりガラガラだった。ボックスオフィスのランキングでは、短期間で記録的な興行収入をあげている、ということだったので、もっと密になっているかと思っていた私は拍子抜けした。平日の夜ということもあってか、広い館内には我々を含め10名前後の観客がちらほら座っているだけ。それでも、見知らぬ人たちと一緒に同じ時間、同じ空間を共有することに新鮮な感動を覚えた。最新テクノロジーを駆使したSF超大作は、映像の美しさ、音響の素晴らしさに負けない俳優陣の演技が相乗効果をもたらし、「巨大スクリーンで観られて良かった!」と納得のいく一本で、映画を観る喜びを思い出させてくれた。

 

客席はガラガラだったが、巨大スクリーンで観る映画の醍醐味を久しぶりに味わった。涼しくなったお陰でマスクを着けたままでも不快な思いをせずに映画を楽しめた。