映画や演劇が日常の暮らしにパンチを与えるスパイスであることは、それを奪われてみて初めて痛感したことだった。その一方、コロナ禍の日々の暮らしの中で必需品の地位を獲得したのが本である。世界的な例に漏れず、イタリアでも読書離れが進んでいたが、コロナ禍ではイタリア人の月間平均読書量が急増した。映画が刺激的なスパイスなら、本は味覚の基本となる塩や砂糖のようなものだろうか。しかしながら、コロナ禍で経済的に困窮し、もっともっと本を読みたいのに買えないというジレンマに陥っているイタリア人はたくさんいる。

 

 そんな人々のストレスを知ってか知らずか、先日メトロの車内で発見したものに思わず拍手を送りたくなった。車内に貼られた掲示板は、QRコードを読み取ってダウンロードできる無料の電子書籍図書館だったのだ。後日立ち寄ったテルミニ駅の構内には、さらに膨大なラインナップを揃えた電子書籍図書館が登場していてますます感激した。基本は著作権無料のイタリア文学の古典や世界的な文学の名作だが、ツーリストの利用も考慮して、イタリア語・英語・フランス語など複数の言語から選べるのも素晴らしいと思った。さらに、書籍だけでなく、クラシック音楽の名盤も同様にQRコードでダウンロードできるようになっている。「旅と読書をもっと愛そう」というさりげない宣伝も粋だなと感じた。私もこの機会を利用して、いつか読もうと思いつつ手が出なかったイタリアの古典文学作品をありがたくダウンロードさせてもらった。

 

テルミニ駅のメトロ改札口前に登場した「デジタル図書館」。音楽や古典文学の名作が無料でダウンロードできる(上)。イタリア語だけでなく、英語やフランス語の本も取り揃えているのは、各国から訪れるツーリストへの配慮だろう(下)