もはや毎夏の恒例となったヴァッレ・ダオスタの山歩き。モンブラン、グラン・パラディーゾ周辺は歩き尽くし、今年はいよいよ念願のマッターホルン(伊語でチェルヴィーノ)を目指すことにした。目標が定まったら、まず最初にぶち当たるのが「何処を拠点にするか」という問題。今回はレンタカーも借りない計画だったので、ベースとなる宿はバスでアクセスできる場所になくてはならないのだが、マッターホルン周辺は私と相棒にとって未知のエリアで何を基準に選べばいいのか見当がつかない。困った末に駆け込んだのが、オーナーもスタッフもプロの登山家が揃っている近所の登山専門店。イタリア国内の山という山を歩き尽くしている彼らなら、きっと良いアドバイスをくれるに違いないと思ってドアを叩いた。「マッターホルン周辺でバスでアクセスできて、登山道が豊富で静かなところはあるか」とわがままな要求をぶつけてみると、彼らは「本当は秘密にしておきたいんだけど、とっておきの場所があるよ」と言って「シャモワ」という村を教えてくれた。初めて聞く地名でどんな環境なのか想像もつかなかったが、アルプスを歩きつくしたプロ達が惚れ込んだところだからきっと素晴らしいに違いない。そう信じて列車に乗り込んだ。

 

ロープウェイの終点が村の入り口

 車なしでヴァッレ・ダオスタ州の各街へアクセスするには、トリノかミラノからバスを利用するのが一番便利である。我々もトリノのポルタ・スーザ駅前から高速バスに乗り込み、シャティヨンを経由して約2時間半で目的の停留所ブイッソンに到着した。「シャモワの村にはロープウェイか徒歩でしか入れない」と聞いていたのでバスの運転手に確認すると、「停留所からまっすぐ1分歩けばシャモワ行きロープウェイの乗り場に着くよ」と教えてくれた。ブイッソンとシャモワを繋ぐ唯一の公共交通機関であるロープウェイに乗り込むと、10分足らずの時間で700mの高低差を一気に登って行った。まるで天空の村のようなシャモワの駅に降り立つと、下界とは全く違う新鮮な空気と爽やかなそよ風が歓迎してくれた。

 

 シャモワは人口100人に満たない小さな山間の村と聞いてはいたが、実際に村を歩いてみるとその素朴さに改めて感激する。ロープウェイの駅前広場に集中している主な施設は古いアパートのような3階建ての市庁舎と真っ白な教会、バールが一軒、食材から医薬品、衣類、お土産物まで取り揃えた「なんでも屋」のショップが一軒。あとはレストランが2軒あるのみという文字通り「小さな村」である。この村で恐らく一番重要だと思われる施設はスキー用の二人乗りリフトで、このリフトを乗り継いで行くと、キャンプ場やバーベキュー施設も備えたロド湖から、マッターホルンの大パノラマが見渡せる標高2500mのフォンタナ・フレッダの丘まで登ることができる。冬はスキーのメッカでこの小さな村に世界中からスキー・マニアが集結するそうだが、夏の間は家族連れや単身ハイカーがほとんどで、周囲はいたってのどかな雰囲気に満ちている。

 

 

イタリア国内で唯一の「車でアクセスできないコムーネ(基礎自治体)」であるシャモワ(上)。ブイッソンとシャモワを結ぶロープウェイは一年を通じて朝7時から夜9時まで運行している(中上)。村の広場から見た教会と左に隣接するロープウェイの駅(中下)。広場に面したバールと山小屋風の可愛い市庁舎(下)。