爽やかな空気に満ちた心地よい秋晴れの日が続いている。酷暑の夏もようやく終わり、美食とアートをたっぷり堪能できる季節がやって来た。この時期になると決まって行きたくなるのがトスカーナ地方。ローマから日帰りでも行けるシエナの街は、この季節に訪れるのに最適な街だ。ショップやレストラン、カフェが軒を連ねる赤茶色の落ち着いた旧市街は一人で歩いても飽きることがなく、教会や美術館に入れば思わずため息が出るような素晴らしい芸術品が溢れている。秋の一日、心の栄養を補給しに、バスでシエナへと向かった。

 

■中世時代がそのまま残る世界遺産の街

 

 何度訪れても楽しい街歩きができるのがシエナの魅力だと私は思っている。円形になった旧市街は、道の両脇が煉瓦色の建物に囲まれていて、まるで映画のセットの中を歩いているような感覚に陥る。中世時代から変わっていないこの街並みは、『シエナの歴史地区』としてユネスコ世界遺産に登録されていて、ゴシック、ルネサンス、バロックの芸術作品の数々は、この小さな旧市街のいたるところで目にすることができる。「美術館に行くぞ!」と特別な気合を入れずとも、ぶらぶら散歩をしているだけでそうした芸術に触れることができるのだから、これほど贅沢な散歩はない。 

 

 高い建物に囲まれた細い石畳の道を迷いながら歩くうち、街の中心であるカンポ広場の入り口に行き当たった。「世界一美しい広場」と呼ばれるこの広場は、有名な伝統競馬パリオが開かれる場所としても知られている。赤いレンガが敷き詰められた扇状の広場は13〜14世紀にかけて作られたもので、現在も当時のままの姿を残している。広場を見渡すように立ち並ぶカフェのテーブル席に腰を下ろし、どっしりと頼もしいプブリコ宮殿を眺めながら一杯のカフェを味わう。700年も前から、こうしてこの広場で談笑したり、塔を見上げたりしていた人たちがいるのだと想像すると、なんとも言えず不思議な気分になってくる。

 





中世時代から変わっていないシエナ旧市街の街並み(上)。「世界一美しい広場」と呼ばれているカンポ広場(中)。扇状の広場には、プブリコ宮殿(現市庁舎)を臨むカフェやレストランが軒を連ねている。