文と写真・サラーム海上

 

 「ここはアフリカだから」

 3月8日から15日まで8日間にわたり開催されたアビジャン舞台芸術見本市 『Marche des Arts du Spectacle d'Abidjan』、通称『MASA』。取材を3日続けた時点で、何もかも時間や予定通りに進まないことを理解した。プログラムの開始時間が遅れるのは当たり前で、さらに内容が変わったり、順番まで前後したりするのだ。予定時間に会場に着いても、2時間経ってからやっとリハーサルが始まったり、会場が変わっていたりもするのだ。

 「ここはアフリカだから」と言われてしまえばそれまでだが、今やトルコでもイスラエルでも、モロッコでもポーランドでも、音楽フェスティバルは予定時間どおりにスタートし、終了する。あ、もちろんインドでは今も時間なんて気にしてないようだけど。それでも偶然をふくめて、興味深いプログラムに出くわすから、毎日、朝から深夜過ぎまで取材を止めるわけにいかないのだけど……。

 

MASAの野外会場の脇ではその場でグラフィティーも描かれていた

 9日の午後3時、気温は摂氏34度と一日で最も暑い時間。僕は文化宮殿の野外の小ステージにコンゴ人女性のスラム歌手、Mariuscaを観にでかけた。スラムとは地域の伝統的な語り芸が現代のラップを通過し、ヒップホップ的なトラックに乗った21世紀型の語り~ポエトリーリーディングのこと。ラップのように早口ではなく、ラップとは異なるスタイルのライムやフロウを追求している。ヒップホップ化した浪曲や狂言と言えば想像が付きやすいだろうか。

 会場には時間どおり到着したが、音響スタッフのほか誰も現れない。30分待っても何も始まらないのでスタッフに尋ねると、彼女が昼の野外会場を嫌がり、他の場所に移動したそうだ。しかし、代わりの場所を尋ねても、その場にいた誰も知る人はいなかった。

 Mariuscaは後日、市内のゲーテ・インスティトゥート(ドイツ文化センター)の冷房が効いた小ホールで観ることが出来たが、待ってみたもののあまりの暑さや時差ボケからくる眠さに負けて、見損ねてしまったプログラムもいくつもあった。

 

コンゴのスラム歌手、Mariusca。二度目にしてやっと観れた

 暑さから逃れるには、冷房の効いた室内ホールに逃げ込めることも学んだ。室内ホールでは主にダンスや演劇、スタンダップコメディーが行われていた。ダンスは宗教的な祭礼を舞台化したものから、アフリカの要素を取り入れたコンテンポラリーダンスもあって、ダンスの素人の僕にも十分に楽しめた。

 西アフリカにはヴードゥーの元となったヴォドゥンという民間宗教が今も広く信仰されている。ベナンの舞踊団Cie Oshalaは太鼓などの演奏家が8名ほど、ダンサーも10人以上の大所帯でヴォドゥンの儀式をステージ上に再現していた。儀式の途中で死んだ女性を、凝った衣装を着た神様が次々と現れ、蘇らせるというまさにゾンビ劇。火を噴く神様がいたり、カラフルなスカートを履いた若いアニキたちの神様がいたり、クライマックスには全てを飲み込んでしまう無定型の神様までが登場する。大所帯なので海外公演は難しそうだが、アフリカらしいエネルギーとカラーに満ちたグループだった。

 一方、ブルキナファソのダンスデュオ、Cie Hakili Sigiは、鍛え上げた上半身裸の男性二人が動きをシンクロしながら踊る、まさにアフリカのコンテンポラリーなバレエだ。

 

ベナンの舞踊団Cie Oshala。ヴォドゥンはリオのカーニバルなどにも影響を与えていることがわかる

こちらもベナンの舞踊団Cie Oshalaから。死者を蘇らせるために火を吹く

ブルキナファソのダンスデュオ、Cie Hakili Sigi。シンクロした動きと肉体美!