文/チョン・ウンスク

 

 このコラムやtwitterで韓国映画の魅力的な飲食場面をよく取り上げているが、今回は「食べる」場面というより、「食う」場面が突き抜けて魅力的な映画を紹介しよう。

 

■『哀しき獣』(2010年) ハ・ジョンウ主演、ナ・ホンジン監督

 

 中国の朝鮮族自治州・延吉のしがないタクシー運転手グナム(ハ・ジョンウ)は、膨れ上がった借金の返済のため犬商人で密航ブローカーでもあるミョン(キム・ユンソク)から殺人を請け負い、標的がいる韓国に漁船で密入国する。半年前に韓国に出稼ぎに行ったきり便りのない妻にも会いたい。

 監督が『チェイサー』や『哭声/コクソン』のナ・ホンジンであることからもわかるように、血生臭く、救いのない物語だ。

 

2008年1月、延吉の市場を取材中の筆者

 

■密入国ツアー、朝食付き

 

 真冬、地獄のような船底に詰め込まれ大連から仁川まで運ばれたグナムは、潜伏先の民泊で目覚め、併設された元刺身屋の座敷で朝食にありついた。不法ツアーとは言っても食事は付くようだ。

 汁の中のネギやモヤシをずるずるすするグナム。オレンジ色のパンチャン(おかず)は白菜キムチか、それともホヤか。仁川は港町だからホヤくらい添えられても不思議ではない。ホヤは刺身でもわりと日持ちするので、仕入れ値はそう高くない。

 

グナムがすすっていたのはこのような魚のアラ汁だったのではと想像する

 目の前に座っているブローカー一味が自分をぞんざいに扱うことに無言の抵抗をするように、荒々しい箸使いで海苔4~5枚を丸ごと口に押し込み、目で威嚇するグナム。もりもり食べ、過酷な任務をまっとうし、故郷に帰ってやるという強い意志が感じられる場面だ。

 

韓国人は海苔さえあればごはんがたくさん食べられる