自由に韓国に行けなくなって2巡目の秋。まもなくおでんの美味しい季節に突入する。まさかこんな時代がやってくるとは夢にも思わなかったが、ソウル在住の紀行作家、チョン・ウンスクさんから、ステキなオムクのリポートが届いたのでお届けする。舞台はオムクの本場、釜山(プサン)だ。

 

■釜山のオムク 
 

文と写真/チョン・ウンスク

 

 世の中には「古くさい」のひとことで切り捨てられ、忘れ去られていくものが少なくないが、かたちを変えながらしぶとく生き残るものもある。

 韓国の飲食文化でいうと、マッコリはそのいい例だろう。かつては農民の酒、労働者の酒、貧乏学生の酒だった韓国のどぶろくは、2009年のブーム以降、地域やメーカーごとに多様化し、洗練され、若い女性に愛されるヘルシーな酒として定着している。

 また、かき氷もそのひとつだ。今や単なる小豆(パッ)+かき氷(ピンス)ではなく、季節のフルーツやアイスクリームをトッピングしたカラフルなデザートとして、日本のコリアンタウンでも逆輸入品的に再現されている。小津安二郎の映画に出てくるような素朴なかき氷は遠くなりにけりだ。

 そして、もうひとつ予想外の返り咲きを果たしているのが釜山の「オムク」。オムクとは魚のすり身を使った練り物の総称で、日本で言えばカマボコやチクワ、さつま揚げに当たる。韓国各地の海産物が集まる釜山は練り物で有名だ。日本時代、日本人が経営していたかまぼこ屋が十数軒あり、解放後、それを韓国人が引き継いだかっこうだ。

 

 2015年、単行本の取材で釜山に2週間ほど滞在していたときのこと。釜山駅2階のコンコースに行列ができている店があった。女性客が多く、みなトレーを抱えているのでパン屋さんのように見えるが、看板には「어묵(オムク)」と書いてある。

 店に入って驚いた。オムクと言えば国際市場の西側にある富平(ブピョン)カントン市場で売られている庶民の惣菜然としたものが思い浮かぶのだが、そこではトングでオムクをつまんでトレーに載せるベーカリー方式が採用されていた。

 

釜山駅構内にあった「サムジン・オムク」(2015年撮影)

 先日、2年ぶりに釜山を訪れ、1953年創業の「サムジン・オムク」をのぞいてみた。釜山駅内にあった店舗は、駅舎を背にしたとき右手に見える広場(クァンジャン)観光ホテルと、左手に見えるラマダアンコールホテル1階のスターバックスの隣に出店していた。6年前の行列は伊達ではなかったのだ。オムクは釜山土産としてしっかり定着し、今やソウルのデパートにも出店している。

 

広場観光ホテルの1~2階にある「サムジン・オムク」釜山駅広場店

「サムジン・オムク」釜山駅広場店1階の売場