「大陸」という言葉の意味を生まれて初めて実感したのはトリエステを訪れた時だった。今から15年以上も前のことだ。ローマから特急列車に6時間近く揺られてたどり着いた国境の街だったが、旧市街を歩いている限り北イタリアの他の街と違った雰囲気は感じられなかった。「国境の街=エキゾチックな空気」と勝手に思い込んでいた私は肩透かしを食らったような気分になったのだが、それが早合点だったことを思い知ったのはトリエステのバスターミナルへ行った時だった。中長距離バスの発着点であるバスターミナルには、オーストリア、ブルガリア、クロアチア、スロヴェニア、ハンガリー、ルーマニアなど、トリエステと周辺の国々の各都市を結ぶバスがずらっと並び、夜遅くにもかかわらず大量の人々が我先にと降り立ったり、乗り込んだりしていた。オレンジ色の電灯に照らされた行き先の読めないバスに大きな荷物を抱えて乗り込む人々を眺めるうちに、自分がどこの国にいるのか全くわからなくなったことを思い出す。今ここで、ひょいとあのバスに乗り込めば、1時間もしないうちに言葉も通じない全くの未知の街へたどり着けるのだ。そう考えると、ちょっと鳥肌が立つような興奮を覚えた。
 15年前は叶わなかったバスの「半日海外旅行」だが、今回ようやく体験する機会に恵まれた。トリエステから「ひょいと」バスに乗って訪れた、スロヴェニアの港町ピラーノをご紹介しよう。

 

片道6ユーロの海外旅行

 

 トリエステのバスターミナルで、「直通で、日帰りで行ける外国の街」を探してみると思いの外たくさんの選択肢が見つかったのだが、ターミナルのバスの行き先を見ても、そこが一体どんな街なのか全く想像できない。イタリアの隣国スロヴェニアは、1991年に旧ユーゴスラビアから独立した国で、観光地としての知名度はまだあまり高くない。私自身この国に関する知識は皆無で、「スロヴェニアって、何があるんだろう?」と首をひねりながら、ただ行き先を眺めるばかり。このままでは埒が明かないのでチケット売り場で尋てみると、「ピラーノ(=ピラン)なら1時間ちょっとで行ける」と言われた。しかし、行きは直通バスがあるが帰りは乗り継ぎになるという。「あの、スロヴェニアってイタリア語通じます? チケットはどうやって買えばいいの?」不安顔で聞いた私に、窓口のシニョーラは、「大丈夫よ。ピラーノならイタリア語も英語も通じるわ。着いたらすぐ、時刻表を確認してね。ピラーノからカポディストリアまでローカルバスが1時間に2本ぐらいは出てるから、まずはそこまで行って。カポディストリアのターミナルでトリエステ行きに乗り継げばOKよ。チケットは車内でも買えるから」と笑顔で教えてくれた。「今から行けば11時前には着くし、ピラーノは小さな街だから3〜4時間の滞在でも楽しめるわよ」と言われ心は決まった。行きの直通バスのチケット代は5,90€。海外旅行の交通費としては格安だろう。ちなみに「パスポートは必要? 税関はある?」という質問に対しては、「基本的には何もないが、万が一のために身分を証明するものを持っていけ」と言われた。

 



トリエステのバスターミナルにある時刻表の一部。カッコ内のイタリア語表記を見なければ、発音することもできない文字が並んでいる(上)。ターミナルでバスの到着を待つ人々。イタリア、スロヴェニアの人だけでなく、ツーリストも混じって非常に国際色豊か(下)。


中距離バスの車内。運転手はスロヴェニア人だが、イタリア語が通じてホッと一安心(上)。30分ほどで高速を降りた途端、全ての道路標識がスロヴェニア語になった(下)。