フランススイス国境を接する北イタリアのヴァッレ・ダオスタ州は、イタリア国内に5つある特別自治州の一つである。特別自治州とは、通常の州よりも強い地方自治権を有し、一定の分野において独立的な立法権も認められている自治体を意味する。他国との国境があるトレンティーノ=アルト・アディジェ州、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州、歴史的に様々な他国の支配を受けてきたシチリア州、サルデーニャ州が特別自治州に定められている。イタリア国内で最も小さな州であるヴァッレ・ダオスタ州はスイスとフランスの国境に挟まれた位置にあり、言語もイタリア語とフランス語の両方が公用語として日常的に使われている。

 アルプスの麓に広がるヴァッレ・ダオスタの州都アオスタは、先史時代からの長い歴史を持っている。「アオスタ」という街の名は、紀元前25年、この地に「アウグスタ・プレトリア」という町を建設した古代ローマ皇帝アウグストゥスに由来している。遠くローマから進軍してきた古代ローマの兵士達が街を建設するためこの地に移り住んで以来、現在までほぼ変わらない状態で残されているアオスタは、『アルプスのローマ』という別名でも知られている。雄大なアルプスの山々に囲まれた古代ローマの街の見どころをご紹介しよう。

 

4つの古代ローマ遺跡に入場できる共通券

 トリノからイヴレア経由で約2時間、各駅電車を乗り継いでFSアオスタ駅に着いた。タクシーや市バスが巡回する駅前広場はイタリアの他の街と変わらぬ都会的な雰囲気で、アルプスの山間の村をイメージしていた私はちょっと拍子抜けした。初めて訪れる街で最初にすることといえば、「i」マークのインフォメーション・オフィスを目指すこと。アオスタの駅前広場からまっすぐ伸びている大通りを歩き始めて5分と経たないうちに、中央に華麗なトリノ風の宮殿がある広場が見えてきた。旧市街の中心にあるこのエミール・シャノー広場の一角で見つけた看板によると、ツーリスト・オフィスはローマ遺跡があるプレトリア門にあることがわかった。

 

 広場から放射線状に伸びた通りの一つ、ポルタ・プレトリア通りはローマの旧市街の通りと同じようにお店やレストラン、バールがにぎやかに軒を連ねている。狭い通りにあふれるツーリストをかき分けながら進んで行くと、突き当たりに堂々とした二重の石のアーチが見えた。旧市街の東側に位置するこの城門は、紀元前1世紀に造られた古代ローマの城壁の一部で、保存状態が極めて良いローマ遺跡として名高い。街の中から外へと渡された橋の上を歩いて、ポルティコの一角にあるツーリスト・オフィスに入った。Mapをもらいがてら情報収集すると、旧市街の4つの主要な遺跡を回れる共通チケットがあるということだった。「チケットは隣のローマ劇場の入り口で買えますよ」と言われたので、まずは古代ローマ劇場から遺跡巡りをスタートすることにした。

 



旧市街の中心シャノー広場/ Piazza Chanoux。通りの名前や標識、店名など、街にはフランス語があふれている(上)。広場で見つけたツーリスト用看板。ここから放射線状に通りが伸びているので、矢印を頼りに進む(下)。




旧市街への東側の入り口プレトリア門/ Porta pretoriaは堅固な二重構造の城門(上)。2000年前と変わらぬ姿を維持しているプレトリア門。ツーリスト・オフィスを始め、建物内は現役のオフィスとして活用されている(中)。この門の外に出ると、アオスタのシンボルともなっている紀元前25世紀のアウグストゥス帝の凱旋門がある(下)。