ずっとずっと昔の話。
 我が家のリビング(と言うより茶の間)のサイドボード(と言うより茶箪笥)に、ウイスキーやブランデーといった洋酒が収められた一角があり、あるとき、そこに見慣れないボトルが加わった。
 新しく仲間入りをしたのは、ビール瓶のように色の付いたボトルで、ラベルにインパクトがあったことをぼんやり覚えているが、父が、そのボトルを傾けて中身をグラスに注ぐのを見て、幼い私は衝撃を受けた。
「お酒」といえば、透明か麦藁色か琥珀色だと思っていたのに、その液体は、美しい葡萄色をしていた。それを目にしたときから、私はその葡萄色のお酒が気になって、気になって、仕方がなくなった。

 

 そして、ついに行動に出た!!

 

 家に誰もいないとき、そーっとサイドボードのガラス扉を開けて、件のボトルを取り出し、コップにほんの少しだけ中身を注ぎ、その上から水道水を足した。父がウイスキーを水割りで飲んでいたため、子ども心に「洋酒は水で薄めて飲む」と思い込んでいたのだろう。
「いけないことをしている」という罪悪感もあったけれど、親に内緒でこっそり〝大人の味〟を嗜むというトキメキが勝り、私は心臓をバクバクさせながら、淡い葡萄色の液体を恐る恐る口に含んでみた。
 が……。
 水で薄めすぎたためか、何の味もしなかった。もう、ガッカリ……だった。大人はこんなものを美味しいと思って飲んでいるのか? と不思議な気持ちにもなった。

 

 残った液体を捨ててコップを洗ったら、今度は罪悪感のほうが優位になってきて、その日の夕食のとき、こっぴどく叱られるのを覚悟で、私は両親と祖母に昼間の〝悪事〟の告白をした。
 私は俯いて父のカミナリが落ちるのを待つ。その時間のなんと長かったことよ。
 ところが、話は思わぬ展開に。

 

「先が思いやられる」

 

「ほんと、ほんと。きっとこの子は酒飲みなるね」

 

「女の子なのにね、どうするよ」

 

 大人たちはニコニコしながら、こんな会話で盛り上がり、笑い声が響く夕餉となったのだった。

 

 あんな美味しくないもの、大人になっても絶対に飲まないよーだ。

 

 お咎めがなかった(ちょっとは叱られたけど)ことにホッとしながらも、私は、そんなことを思っていた。
 小学校に上がったばかりの頃の思い出だ。

 

 両親はすでに他界しているため、確かめようがないのだが、多分、ラベルにインパクトがあった記憶から推測するに、その葡萄色のお酒は、『赤玉スイートワイン』じゃないだろうか。父が自分でそんなものを買ったとは思えないから、貰い物だったんじゃないだろうか。
 そんなことを思いながら、実家の食器棚をゴソゴソしていたら、『赤玉〜』のノベルティグッズらしいグラスを発見した。
 私のワイン初体験は『赤玉スイートワイン』であることが、これで決まりだ。

 

ワイン好きの私のワイン初体験は、小学校に上がったばかりの頃、親に内緒で飲んだ『赤玉スイートワイン』(サントリー)。今飲むと、非常にスイートで辛党にはちょっとキビシく、ソーダ割りが正解かも。しかし、このワイン、1907年に発売された超ロングセラー商品。根強いファンがいるのだろうけれど、100年以上も存在しているだけに、それぞれの人々の、それぞれの思い出を作っているんだろうなぁ。そう思うと感慨深い。写真のグラスは、実家で発見した1970年代の『赤玉〜』のノベルティグッズ。グラスには「Akadama」の文字が。

 

 成長した私は、親の予言通り、酒飲みになった。

 

 今、何でも嗜むけれど、特にワインが好きだ(初体験の相手を引きずるんですかねぇ)。
 しかし、『赤玉〜』は、あれ以来、飲んだこともなければ、自分で買ったこともない。
 というわけで、今回、生まれて初めて自分で購入して、飲んでみた。
 銘柄名通り、いやはや非常にスイートで。
 ストレートではとても飲めなくて、キンキンに冷えたソーダで割って氷を浮かべて飲むのが正解のようで(あくまで私にとっては、ですが)。
 ということは、子どもの私が、このワインを水で薄めたのは、ある意味、正解だったってことではないですか。

 

もうひとつの、私の「スイートワインのスイートな思い出」は『だいこく』(島根ワイナリー)にアリ。自分が酒飲みであることを自覚しても、まだワインの「ワ」の字もわかっていなかった頃、仕事で島根に出かけてお土産に買ったのがコレ。その名の通り、大黒様をかたどったボトルに入っている。スイートワインと知らずに買って、甘くて甘くて、キンキンに冷やしてどうにかこうにか飲み切って、「やれやれ……」と思った1か月後、「島根に行ったお土産です」と手紙が添えられた荷物が実家の母から届く。嬉々として包みを開けた私の目に映ったのは……、あの『だいこく』だった……。母娘揃って、こういう〝The お土産〟然としているものが好きでして(苦笑)。「まだあるのかしら?」と思って、このほど調べてみたら、ロングセラーのスイートワインとして健在でした‼
島根ワイナリーのオンラインショップで『だいこく』のついでに買ってみた『縁結 甲州2020』(銘柄名がいかにも島根ですね)。まったく期待していなかったけれど(スミマセン)、結構、私の好きな味。クセのない、あっさりした切れ味のある酸味は料理の味を邪魔しないから、素材の味を生かした和食のお供にピッタリ。新鮮な鯛の刺身と相性抜群! 思わぬところで、好きな味のワインに出会うと、ほんと、幸せです。