文と写真/室橋裕和

河を挟んだあっちとこっちは違う国。 だけど文化はほとんど同じだ。ただ経済格差だけが、河と同様に横たわっている。 ガイドブックにも載っていない国境を越えてゆく。

 

■チェンカーンで国境線のメコン河を眺め続けた

 真ッ昼間だというのに、ビアシンの缶が次々と空いていく。目の前の滔々とした流れを肴にすれば、タイを代表するこのビールをいくらでも飲めた。

 飽き足らず、タイ国産のラム、センソムにスイッチする。辛ウマなイサーン(タイ東北部)料理によく合う。炭酸割りをちびちびと舐めながら、僕はメコン河を眺め続けた。

 河の向こう岸には違う国、ラオスの大地が広がっている。河の真ん中が、国境線になっているのだ。

 

 メコン河に面したイサーンの街、チェンカーン。河を利用したラオスとの貿易港として栄えた歴史をもつ。ほとりには、往時に建てられた古い木造建築群がいまでもたくさん残されているが、そのなかには200年前に建造されたものもある。

 で、この昔ながらの街並みがタイ人の若者にウケた。映画『チェンカーン・ストーリー』などのロケ地にもなり、折りしものレトロ・ブームもあって、いまではすっかり人気の観光地だ。土産物屋や、食べ歩きの屋台が並び、楽しげな観光客がそぞろ歩く。いくつかの古民家は改築されて、メコン河と、ラオスとを望むシャレオツなゲストハウスとなった。日本のガイドブックに記述はごくわずかなので、日本人旅行者はとっても少ないが、どこからでも対岸のラオスが見える、国境マニアとしても嬉しい街なのだ。

 そんなわけで「聖地巡礼」に来たタイ人の若いグループやカップルで賑わうチェンカーンに、日本人のおじさんがひとり。国境線たるメコン河を眺めて鯨飲するという、マニアならではの至福に浸り、すっかりできあがった僕は、センソムの瓶を片手に夕方の街を徘徊した。

 そして迎えるダイナミックなメコン・サンセット。

 黄金色の輝きが西岸に没していく。ラオス側が昏く没していく。国境の河が暮れていく。さあ、明日はメコンを越えて、あちら側に行ってみよう。