「ダンナ、そろそろやばいぜ」

 河原のようなオフロードを、右に左に操っていた運転手が言う。あごで示されて車窓を見れば、インド軍の塹壕が無数に並んでいる。迷彩模様の兵舎もある。「もうこれ以上は無理だ。国境警備隊が出てくる。それにここらで、道が途切れる」

 氷河の端を削り取って造成したかのような道は「ゼロ・ポイント」と呼ばれる地点で終わっていた。ここがインドの、ひとつの果てだ。ガントクから北部シッキムを巡るツアーは通常、ラチュン村とユムタン渓谷を巡るだけなのだが、僕は無理を言って国境ぎりぎりまで連れてきてもらったのだ。

 「あの山の向こうが、中国だ」

 わけもなく感動する。あの先が中国領チベット……。

 冷たく乾いた高地砂漠の風に吹かれながら、僕はどうして、これほどに「境目」に惹かれるのだろうかと考えた。

 

チョルテン(仏塔)とタルチョは高地で見ると神々しさすら感じる

あの山塊を越えた先が中国領チベットだ

ゼロポイントにはインド最果てのキロポストが風に吹かれていた

【越えて国境、迷ってアジア  vol.05】(2016.5.15)

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日本の異国: 在日外国人の知られざる日常
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もはや移民大国。激変を続ける「日本の中の外国」の今を切りとる、異文化ルポ。竹ノ塚リトル・マニラ、ヤシオスタン、大和市いちょう団地、茗荷谷シーク寺院、東京ジャーミィ、西川口中国人コミュニティ、そして新大久保ほか。2017年末で250万人を超えたという海外からの日本移住者。留学生や観光客などの中期滞在者を含めれば、その数は何倍にも