文と写真・室橋裕和

 

ベトナムから北インドシナ各地の国境を巡る旅に出た。まずは、小さなおんぼろ国際バスでベトナムのディエンビエンフーを出発し、僻地にあるラオスとの国境を目指す。

 

インドシナ僻地のイミグレーション

 第一次インドシナ戦争の激戦地、ディエンビエンフーのバスターミナルに出向いてみると、僕の乗るべきバスはひときわ小さくみすぼらしい車体で、ほかの大きなバスに挟まれてちんまりと佇んでいた。

 ターミナルの食堂で、朝食としてフォー(ベトナム風の米)を食べてからチケットを買う。

 すでにバスの屋根の上には大量の荷物が載せられていて、押しつぶされそうだ。車内に入ってみると、各座席の下には飼料の袋が並べられ、いきなり狭い。後部座席はダンボールの箱がびっしりと積まれている。ベトナムからラオスに向かうこの国際バスは、輸送トラックでもあるようだ。だから乗客が少なくても採算がとれるのか、僕を含めてわずか5人しか乗っていないのに、定刻通りに出発した。アジアの田舎では、乗客が集まって満員になってから発車することが多いので、これはラッキーかもしれない。

 

フランスとの激戦地になったディエンビエンフーもいまはのんびりとした地方都市

需要が少ないからだろう、ラオス行きの国際バスは頼りない小ささだった

熱々のフォーボー(牛肉入り米麺)を食べて出発!

 ディエンビエンフーを出ると、すぐに道は細く頼りなくなっていった。周囲は深い山中である。ときおり集落や、小さな工場などを通り過ぎる。少しずつ標高を上げ、霧が漂う中、バスはタイチャン国境に到着した。こんなインドシナの僻地なので小さなプレハブかなにかを予想していたが、意外に立派な建物だ。しかし……無人なのであった。

 「あのー、誰かいませんかー」

 イミグレーションの建物のなかを歩き回ってみるが、現れたのは犬を連れた闇両替のおばさんひとり。乗客一同とまどっていると、やがて上階から係員が眠そうな顔をしてやってきたが、この調子なら余裕で密入国できるだろう。通過する人が少ないので、客が来た時だけ開店する国境のようだ。

 ベトナムの出国スタンプをもらい、ついでにおばさんにベトナム・ドンをラオス・キープに換えてもらって、再びバスに乗り込む。ラオス側のイミグレーションまでは5、6キロあっただろうか。山岳ジャングルのど真ん中を走っていくのだが、かつてディエンビエンフーの戦いの際にはベトナムとラオスの共産軍がこのあたりで連携し、補給などをしていたらしい。