文と写真/室橋裕和
のんびりとしたラオスから中国に入ると、一気に世界が荒々しくなる。中国パワーに揉まれながら国境を越えて、雲南省の奥地を目指す。
ラオス側の国境の街、ボーテンの光と影
ラオス北部の街ルアンナムターをバスで出発して、1時間ほど山中を走ったろうか。「雲南」と漢字で書かれたナンバープレートをつけたトラックが目立つようになってきた。道路標識もラオ語に英語と中国語が併記されている。
やがて中国資本と思われる工場や商店が増え始め、中国からの物資を満載した大型トラックがあふれるようになり、漢字がラオ語を圧倒していく。
国境まではまだ20キロほど手前なのに、中国は完全にラオスを侵食しているのだった。貿易のトラック運転手たちが利用する施設が点在し、いくつもの街を形成しているが、もちろん中国人の経営だ。ゲストハウス、雑貨屋、ランドリー、保険会社、金貸し、修理工、ガソリンスタンド……さまざまな店が並ぶが、ラオス人の姿はわずかばかりだ。
国境まで5キロほどの場所には、ラオス側の税関が設置されているが、ここはトラックが集まる巨大ターミナルのようになっていた。税関のチェックを受けたトラックが、続々とラオスに走っていく。その先にはベトナムもあるし、2013年に開通した橋を越えればタイだ。インドシナ半島と中国の結節点であるこの国境は、まさに物流の道として機能していた。

しかし活発な貿易の一方で、ここにはゴーストタウンも広がっている。ラオス側の国境の街ボーテンは、ホテルやレストラン街、マンションなどが無人のまま放置され、廃墟マニアが喜ぶ裏テーマパークとなっているのだ。
発端は2000年代前半のこと。ラオスは国内の国境地帯に経済特区を設置し、外国企業の誘致を始めた。特区内では関税や所得税の減免、工業用地の賃料の割引などの優遇措置が受けられるとあって、南部のサワンナケート国境では日本のトヨタ紡織が進出し話題になった。
そしてこのボーテンでは、中国企業がカジノタウンを建設したのだ。バクチが大好きな国民性なのに(それゆえに?)中国国内で賭博は違法。それならば国境を越えた先で、とカジノをつくったところ、これが大当たりした。リゾートホテルや大型免税店があっという間に立ち並び、投資用のマンションまでもがラオスの山深い国境地帯につくられたのだが、観光客の急増は治安の悪化も呼んだ。ドラッグや売春が横行、暴力事件が多発し、とうとう殺人まで起こった結果、カジノは閉鎖された。あとには撤去の見通しすら立たないビル群が残されたというわけだ。
ピンクやレモンイエローの派手な建物が山の中に佇む姿は実にシュールだ。どれもこれも不気味に沈黙しているのだが、ときおり何をしているのか暮らしている様子の中国人も見かける。そして廃墟の中でたくましく営業している食堂もあるのが中国人のタフなところだろう。トラックの運転手あたりが立ち寄るのかもしれない。もちろんラオ語はいっさい通じないが、1杯10元(約160円)の麺を食べて気合を入れ、国境を目指す。


