文と写真/室橋裕和

 

ダンレック山脈はタイカンボジア国境をなす緑の屏風である。その山頂には、かつての支配者たちが眠る遺構がある。負の遺産を越えて進んだ先には、インドシナでもすっかり珍しくなった年代モノのイミグレーションが待っていた。

 

■ポル・ポト派最後の拠点から、国境をめざす

 タイとカンボジアの国境には、かつて怪物が巣食っていた。

 両国をわかつ山岳地帯を要塞と固め、周囲の村を武力で支配し、あたり一面を地雷で埋め尽くし、カンボジア国軍と対峙した。

 背後に迫るタイ軍に、ルビーや木材など天然資源を密輸し、戦費と武器弾薬を調達、ゲリラとして肥大していく。

 

 カンボジアで政権を追われてから20年以上も、タイ国境を制圧し続けていた彼ら……ポル・ポト派が、最後まで拠点としていた街のひとつが、ここアンロンベンだった。

 面食らった。

 舗装のない、ラテライトむきだしの赤い道路。車が走ればもうもうたる砂嵐が巻き起こる。ひと気は少ない。街道が交差する三叉路とその周辺に粗末な商店と市場がわずかにあるばかり。

 「荒んでるよね」

 同道の先輩記者S氏が呟く。

 カオプラヴィハーンからの帰路(連載#16参照)に立ち寄ったのだが、時代に取り残されたかのような停滞と荒廃を感じさせられた。ゲリラや地雷の危険がなくなるまで手つかずだったこの地域は、カンボジアの経済成長の波に乗り遅れたのだ。

 夜になると電灯はほとんどなく、濃密な闇に覆われた。

 

アンロンベンではこんなスゴいのがまだ現役

サルと遊んでいる(?)少年。噛まれてますけど…痛くないの?

 アンロンベンから真北に進めば、タイ国境である。僕たちは木陰で居眠りしていたバイクタクシーをたたき起こし、2ケツ2台で赤土の大地を疾走する。

 やがて見えてきたのは天然の要害ダンレック山脈だ。東西に広がる緑のカーテンのようなこの山こそ、カンボジアとタイの国境である。バイタクどもは元ゲリラか、山岳地帯を見て調子が出てきたようで、右に左にゾクのようなスラロームをカマし、ワインディングロードを駆け上がっていく。

 山を登りつめたあたりで、先行のS先輩が右手に折れるぞとサインを出す。街道を外れ、ほとんど川原のようなオフロードに入っていく。200メートルほど走って、2台のバイクは停まった。