文と写真/室橋裕和

 

情報のない国境ポイントを探して、タイ北部の山中を迷い歩く。それはいったいどこにあって、どうやって行けばいいのか。本当に外国人も通過できるのだろうか。


 

国際国境を目指して、タイ北部の田舎町を右往左往

 メガロポリス・バンコクからLCCノックエアでおよそ1時間30分。降り立ったナーン県は、シャレではないがなーんにもない、きわめつけの田舎であった。空港からさびついたトゥクトゥクで街の中心部に出てみたが、1階に古びた商店が入った低層のタウンハウスが並び、人はまばらで、ときおり思い出したように車が通り過ぎるのみ。これが本当に県庁所在地なんだろうか……。とっても空が高い。

 ぼんやり過ごすにはいい街のようだ。しかし、僕が目指すのはここではない。この県の最北端に、どうも国際国境があるようなのだ。

 だが越境についての情報はほとんどなかった。外国人でも通行できた、という断片的な英語の体験談がわずか、ネット上にあるばかり。本当に通過できるのだろうか。いったいどんな場所なのだろうか……妄想するほどに旅欲が抑えられなくなっていく。行って、確かめるしかあるまい。

 

ナーン市の数少ない観光スポット、プラタート・カオノーイ寺院から市内中心地を見渡す

 こんな静かな街でも旅の道先案内人・バイクタクシーはしっかり営業しているのがタイのいいところだ。木陰でなにやらタイ風の将棋に興じているバイクタクシーのおじさんたちに話しかけてみると、「バスターミナルなら50バーツ(約160円)でいいぜ」と酒臭い息にまみれたお答え。かたわらのセンソム(タイウイスキー)も頼もしい。もの欲しそうな顔をすると確実に一杯勧められ、旅が止まってしまうので、ここはじっと我慢をして後部座席にうちまたがる。

 ハンドルを握ると意外に運転はしっかりしており、ものの数分でバスターミナルについた。これならもっと安くてよかったな……酔っ払っていても、とりあえず相場をいくらか上回る額を言ってくるのは忘れないらしい。僕の渡した50バーツ札はきっと、帰り道にビールか氷か炭酸に化けるだろう。

 バスターミナルもまた、気だるげであった。タイの賑わっているターミナルであれば、どこへ行くのかチケットは買ったかと係員が飛んできて、窓口からは目的地を呼ばわる声がかかる。行き交う旅客たちからも高揚感が感じられるものだ。

 しかしナーン・ターミナルにはバスもまばら、客は数えるばかり、窓口をのぞきこんでみれば係員のおばさんは突っ伏して昼寝の真っ最中であった。

 これはいったいどうすれば……悩んでいると構内に古びたタテ看板を見つけた。ナーン県の地図である。このターミナルから行ける場所が網羅されているらしい。縮尺はともかく表記されている地名は、Google Mapsよりも地球の歩き方よりも詳しいではないか。さすがは地元。中学校の時分、社会科の教材に使われた地図帳にハマッて以来、僕は地図を偏愛している。いまでも枕元に『帝国書院・新詳高等地図』を安置させているほどなので、ナーン県全図に思わずかぶりつき、バッシバシと写真を撮りまくる。

 その端っこをよく見れば、かすれた文字で「Huay Kone Border Pass」とあるではないか。まさかの英語表記、さすがは県庁所在地である。外国人の通行ができるかどうかはわからないが、とりあえず目的地は判明した。

「フアイコーン、フアイコーン」

 やる気皆無の係員や、物売りのおばさんたち、野良にまで連呼してはみるが、首を振られるばかり。あやしい外国人だと思われているだろうことを差し引いても反応は薄い。

 これはトゥクトゥクかなにかチャーターするしかないかな……そう思っていたら「ロットゥーならあるよ」と声がかかる。「あたしも待ってるんよ」大きな段ボールをわきにしたおばちゃんいわく、乗り合いバンがたまに出るのだそうだ。ひとつ、ほっとする。行けるんだ。

 が、出発は2時間ほどの後のことだった。乗客でバンがいっぱいになるまで根気強く待つのが、タイのみならずアジアの田舎のルールである。

県内のさまざまな見どころがバッチリ掲載されたナーン最強マップ。とはいえ滝と寺しかないのだが……