文と写真・室橋裕和

ふたつの国が陸で国境を接して、人が互いに行き来する場所……陸路国境。そこはいったい、どんな場所で、通過するにはどういった手続きが必要なのか。そんな基本的なことをすっ飛ばして連載を続けてきてしまったことを反省し、今回はアジアの陸路国境というものを解剖してみたいと思う。
越えて国境、迷ってアジア vol.52〈番外編〉(2018.5.28)】

 

■国境ってどんな場所なのだろう

「ふたつの国が、ひとつのラインで接しあってんでしょ。そのラインが国境なんだよね。じゃ国境に沿ってずーーっと柵とかカベとかがあるの? それとも警備兵かなにかがダーッと並んでんの? 行き来できるのは決められたイミグレーションだけ? それともイミグレーションは、国境に面してあちこちにたくさんあるの? 陸の国境って見たことないから、いまいちイメージがつかめない」

 当連載を読んだという知人にそう問われて、僕はいまさらながらハッとした。「国境を越える」という行為に囚われるあまり、現場を知らないビギナーを置き去りにしてきたことに気がつかされたのだ。

 50回以上も連載を続けてきて、国境の一般的で具体的な姿かたちを描写し解説することをせず、ひたすらにマニアックな越境情報の羅列に終始していたのである。

「ビザとかいるの? 空港とどう手続きが違うの?」

 さらに畳みかけられ、僕は反省を深めた。

 そこで今回は番外編として、陸路国境とはなんぞや、どういう場所にあり、越境手続きはどう行なうのか、図解も併せて解説しようと思う。「陸路」「国境」なんてキーワードで検索すると、このエッセイが上位に来ることを狙ってのものであることはナイショだ。

 

■古来からの街道上にある「関所」

 さて、まずは陸路国境という場所を視覚的に捉えていただきたく、恥ずかしながら手書きの参考マップを掲示する。アジアの場合はたいていこうした感じだと考えていただければと思う。

 

国境は「国際国境」と「ローカル国境」からなる

 まず僕の知人の問いに答えていくと、国境を接している両国でも、そこらじゅうで越境できるわけではない。場所は決められている。それは国を越えて、古来から使われてきた交易ルート、大きな街道筋に位置していることが多い。現在の国境線が確定する前から、人が歩き、隊商が行き来し、モノや情報がやりとりされていた道……そこはいまでも地域の大動脈として機能しているのだ。で、その大きな道路の国境線上に、イミグレーションが設置されており、現代社会では人間は出入国手続きを、荷物は通関手続きを受けなくてはならない。

 こうした国を越える主要道路にある国境は「国際国境」であることが多い。国境を接している両国の人々だけでなく、そのほかの第3国のパスポートを持っている人も通過できるポイントだ。

 そして街道というものは、毛細血管のように張り巡らされている。国を越えていく道路の中には、小さなものもたくさんある。ささやかな町や村の一角に、小屋のようなイミグレーションが設置されている場所もけっこうあるのだ。そして人々は、パスポートではなく両国の越境だけに使える簡素な書類を手に(ときにはそんなものもなく手ぶらで)日常的に国を行き来している。「生活国境」ともいうべきローカルな場所で、第3国人の通過はできないところばかりだ。外国人の管理はやはり大きな国境で、というのが普通である。

 それでも経済発展に伴い、毛細血管だった道路が太く成長し、ローカル国境が国際国境に格上げされることもある。近年ではタイミャンマーの間で、いくつか国際国境がオープンした。マニアのフロンティア・スピリットが刺激される出来事であった。

 国境線に沿って、数は少ないが交通がさかんな「国際国境」と、国際国境よりやや多く、地元の人が通過する「生活国境」がいくつか点在する。そんな姿がアジアでは一般的だ。