文と写真/室橋裕和

 

「地球の酸素タンク」とも呼ばれる、熱帯雨林の宝庫ボルネオ島。世界で3番目にデカいこの島には、インドネシアマレーシア、そしてブルネイが領土を持っている。
日本ではほとんどなじみのないブルネイの首都を出て、複雑に入り組む国土を旅し、マレーシアと行ったり来たりの国境越えに挑戦する。

 

■アジアで最も静かな首都?

 「これがホントに一国の首都なんだろうか……」

 僕は市内中心部、東京でいえば銀座か丸の内的な場所であるはずのスルタン通りで天を仰いだ。片道2車線ほどのささやかな「目抜き通り」の左右に、5階建て程度の低層のビルが並び、銀行やらレストランやらショッピングモールやらが入っているのだが、それも半径200メートルといったところ。

 とにかく、ひと気がなかった。静かである。歩く人はまばらで、活気らしいものを感じない。

 中心部を少し離れれば、水路が巡り、伝統的な木造の水上家屋の群れが並ぶ。その向こうにはもう、熱帯のジャングルさえ広がっているのである。

 これがブルネイの首都、バンダル・スリ・ブガワンだった。

 

ブルネイはイスラム教の国。こちらはスルタン・オマール・アリ・サイフディン・モスク

首都中心部でもとっても静か。賑やかさはまったくなし

■お金持ち国家ブルネイはむしろ質素だった

 しかし、フに落ちない。

 ブルネイといえば、石油や天然ガスを豊富に産出する資源大国。一人当たりGDPはシンガポールに次いでアジアNo.2のおよそ4万3000米ドル、もちろん日本をブッちぎっている。国を治める偉大なるスルタンは、この富を背景にして国民に恩恵を与え、聞くところによれば住民税ナシ所得税ナシ、さらに公立病院と公立学校がこれまた原則無料。国民健康保険の支払いにすら煩悶している僕からすれば実にうらやましい国なのだが、その街並みには、わかりやすい豊かさは見当たらなかった。

 ショッピングモールは古ぼけている。ハデな高層ビルもない。中東の産油国のようにブランドショップが並んでいるわけでもない。走っているのは高級車ではなくマレーシア製の大衆車プロトンだ。「お金持ちの国」という印象はまったく感じないのであった。

 むしろ質素ですらあるかもしれない。

 カンポン・アイールという水上集落をのぞいてみれば、とうてい資源国とは思えない木造のバラックが肩寄せ合っている。郊外に行けば庶民的な団地群もある。

 それでも税金や医療費がなく、暮らしぶりにはゆとりがある。だから必死になって働く必要がなく、いまいち活気がないのかもしれない、とも思った。

 娯楽も少ない。買い物や遊びに行こうと思ったら、ポンとシンガポールまで飛ぶのだそうな。産業はエネルギー以外にはあまり育っていない。「リッチな資源国」というよりも、油に頼りきったけっこう危ない国という印象まで抱いた。

 というのも、ブルネイの天然資源はあと10~20年ほどで枯渇するともいわれている。国は金融や観光など産業の多角化を進めているが、のんびりした生活に慣れすぎた国民に危機感は薄いという。

 

ローカルな市場もあるにはあるが、規模は小さい。あまりやる気を感じられない
バンダル・スリ・ブガワンは運河や川が縦横に巡り、ボートも交通手段になっている