文と写真/室橋裕和

メコン河を行き来する水上交通の要衝パクベン。たくさんの旅行者が行き交いながらも、古き良きラオスがたっぷり残るこの村は、いまダム建設に揺れているという。2018年7月にラオス南部で発生したダム決壊事故も影を落とす。メコンの乱開発はもう止まらないところまで来ている。

 

至福のメコン酒

 メコン河を見晴らしながら飲むビアラオは、たぶん世界でいちばんうまい。

 喉ではじけ、胃の腑に落ちていき、酔いが全身にじんわり広がっていく。ほぐれた気持ちで巨大な濁流を眺める。護岸工事もされていない天然のままのメコンは、低い地鳴りのような音を立てて流れていく。左右には山岳が迫り、その緑と、河の茶だけの世界。いつまで見ていても飽きないのだ。

 しかも天下の平日白昼であった。真ッ昼間から飲む酒のうまさは、きっとアル中諸氏にはわかっていただけると思う。加えてカタギの皆さまが汗水たらして労働しているであろう平日に決めるメコン酒。あまりの幸せについついビールは進む。

 

 圧倒的な優越感に浸っているところに、運ばれてきたのはラオス名物料理のひとつラープ・ガイ。鶏肉とハーブのサラダである。唐辛子のスパイシーさと、ジューシーな鶏ひき肉に、ミントとライムのさわやかな香りがよく合う。隠し味はカオクア(炒り米)だ。
 ラープ、ビアラオ、メコン。完璧な3点セットであった。大勝利である。

 

ラオス名産ビアラオ&メコン河。最強の組み合わせといえよう

ラープはビールにも合うがカオニャオ(もち米)にも合う。ガイ(鶏)もいいが、ペット(鴨)もいける

ラオス山間部の静かな村を歩く

 ラオス北西部、タイ国境も間近に迫る山間の小さな村パクベン。メコンを西に50キロほどさかのぼると、大河の西岸がタイになる。#12でも紹介した、フエサイ=チェンコン国境に至るのだ。

 そして東に河を100キロあまり下っていけば、世界遺産の街ルアンパバンに出る。かつてのランサーン王国の首都であり、いまやラオス最大の観光地でもある。

 その中間地点のようなパクベンは、だから外国人旅行者もけっこう多い。着場から上っていく坂道に沿って、10軒ほどのゲストハウスが並び、僕がビアラオを結局夕暮れまで飲み続けてしまった簡素な食堂もいくつかある。

 とはいえ静かなものだ。外国人が行き交うエリアは一部だけで、あとは古びた木造の民家が続く。小さな寺院と、青空市場、いくつかの屋台。ささやかな暮らしぶりが伝わってくる。観光都市ルアンパバンや首都ビエンチャンがどんどん発展していく一方で、パクベンには懐かしい空気がまだまだ残っていた。

 とくに朝方は幻想的だった。少し酒の残る頭でゲストハウスを出てみると、薄く霧が漂っていた。熱帯だが山中なのでいくらか寒い。その冷え込みの中を、托鉢僧が歩いていくのだ。マフラーやショールをまとった村人たちは僧が来るだいぶ前から待ち構えていて、朝の挨拶を交わしている。オレンジ色の袈裟を認めると、路上に座り込んで手を合わせ、僧たちの持つカゴにもち米やら惣菜やら水やらを惜しげもなく入れていく。何百年もこんな朝が繰り返されてきたのだろうと思う。

 

どこか昔の日本の山村にも似た空気を感じるパクベン

青空市場で店番をしていた少女だが、左下には死んだ鳥が……やっぱり食べるんだよね