州境を越えると、世界はいきなり変わった

 リキシャは茶のプランテーションの中のあぜ道のようなところを走り続けた。やがて荒れ果てた集落に行き当たり、停車する。

 「見えるだろ。あの橋の向こうが、ナガランドだ」

 本当なのだろうか。小川にかかる、しょぼくれた橋。たもとの朽ちかけた看板には「NAGA LAND」とある。胸が鳴った。

 そばの掘っ立て小屋から、制服を着込んだ爺さんが出てきた。

 「外国人かね。よく来たね」

「……ナガランド、入っていいんですか」

「時代が変わったんだよ。好きに旅するといい」

 優しい笑顔に見送られて、橋を渡る。震える足先で、ナガランドの地を踏む。


「うおおおおっ!」

 思わずコブシを突き上げた。ついに僕は閉ざされた秘境に入ったのだ。日本人では初めてではないだろうか。自らの偉業に目頭が熱くなったが、そんな僕を見つめているのは……あれっ。

 ソナリまでたくさんいたはずのインド人の姿はない。モンゴロイドの人々だけだった。赤ん坊を背負った子供たち、マキを担いだおばさん、鼻をたらしたヒマそうな少年。誰も彼もが懐かしい顔をしている。

 そして、インド世界とはまったく違う村の様子。木造りの家、藁葺きの屋根。土の道。鶏の鳴き声がする。山影に入ったからか、厳しい日差しはもうなく、吹き渡る山の風は清涼だった。夕陽が差し込んできた。カラスも鳴いている。

 ここはいったい、どこだろうか。タイの農村? 中国の山奥? それとも日本の山村の、昭和いや戦前、いや……明治? 圧倒的なまでに世界は変化した。

 州境を越えただけで、これほどダイナミックに文化と時代が変わるポイントも珍しい。現代のインド世界から、近世の東アジアへ。

 子供たちがふしぎそうに、じいっと見つめてくる。胸の鼓動が速くなる。僕はいまいるのは本当に21世紀だろうか。

 僕たちモンゴロイドが心のどこかに持っている「アジアの原風景」がここにある……僕はタイムスリップしたような興奮に包まれた。

 

遠い昔は日本もきっと、こんな子たちがいたに違いない

【越えて国境、迷ってアジア vol.60】(2018.9.26)

 

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日本の異国: 在日外国人の知られざる日常
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もはや移民大国。激変を続ける「日本の中の外国」の今を切りとる、異文化ルポ。竹ノ塚リトル・マニラ、ヤシオスタン、大和市いちょう団地、茗荷谷シーク寺院、東京ジャーミィ、西川口中国人コミュニティ、そして新大久保ほか。2017年末で250万人を超えたという海外からの日本移住者。留学生や観光客などの中期滞在者を含めれば、その数は何倍にも