文と写真/室橋裕和

大陸から列島へ。玄界灘を越えて、で帰国しようと思い立った。その出発点である国際港・釜山は、駅前からしてインターナショナル&カオスなのであった。
※この記事は2019年2月初出のものです。

 

格安の連れ込み宿に泊まる

 「オニサン、オニイサン」

 さんざめく繁華街を歩く僕に、いつの間にか寄り添うチリチリパーマ。流暢な日本語はさすが国際港湾都市・釜山であろう。

 「いいコいるよ。安くしとくよ。サービスすごいね」

 ささやきながら、おばちゃんは僕の左腕をガッチリとフックする。振り払おうとしても関節技のごとく極まっている。なかなかの腕っぷしである。

韓国いいか。中国いいか。ロシアもいるよ」
 極東女子のラインナップを並べ立ててくるが、あいにく僕は肉食男子ではない。しつこく買春を勧めてくるおばちゃんをなんとかあしらい、宿にたどりついた。

 とはいえ、泊まっているこの宿からして連れ込み系なのであった。内部はほとんど廃屋である。ギシギシの階段を上がって2階に行くと、廊下はくすんだピンク色に塗り込められている。不意に左手のドアが開き、韓国人のおじさんと、どこの国かは知らないがアジア系のお姉ちゃんとが手に手を取って出てきた。一戦カマしたあとなのだろう。目が合ってしまう。気まずい。さっきのおばちゃんの誘いに応じたら、この手の宿にまず押し込められるのかもしれない。

 

 僕の部屋はさらに進んだ奥のほうだ。淫靡な、生臭い匂いのする廊下を歩き、ドアを開ける。ふう、とひと息つくが、部屋の中央に鎮座しているのはズバリ、昔懐かしい回転ベッドなのであった。

 昭和のラブホテルでは定番であったと聞く。ベッドのめくるめく動きと、天井に設えられたワイセツな鏡とのコンビネーションは、多くのアベックをトリコにしたという。だが僕はその時代を知らないので、レトロな昭和テーマパークのように映る。残念ながらいまでは、回転装置は外されており、動くことはない。

 枕もとにはコンドームとローションが置かれているが、掃除は行き届いていたし、wifiはビンビンで、シャワーの湯量もたっぷりで、しかも安かった。日本円で3000円くらいだったと思うが、釜山最安クラスではないだろうか。

 

バスルームもついてこれで3000円ほど。部屋の造作と客層を気にしなければコスパは良い