文と写真・室橋裕和

砂漠が広がるウズベキスタン南部のオアシス都市。そこにはシルクロードの交易がさかんだった時代の空気が閉じ込められていた。中世の街をそっくりそのまま保存し、いまもそこで人が暮らしている。ここがウズベキスタン最大の見どころかもしれない。
 

砂漠の国境越えに挑みたかったが……

「あの向こうがトルクメニスタン……」

 そう思うと震えた。

 視界いっぱいに広がるこの荒野のどこかに、きっと国境線が引かれているのだ。そこを越えると、また知らない国になる。しかし、イミグレーションらしき施設も、なにも見当たらない。360度、茶褐色の大地である。荒地にぽつりぽつりと、村が散らばっている。

 手もとのスマホを見れば、僕は確かにウズベキスタンとトルクメニスタンの国境間近にまで迫っていた。目立たないがどこかにイミグレーションもあるのだろう。外国人も通行できる国際国境と聞いている。

 しかし、残念ながら今回の旅では、越境は叶わぬ夢であった。旅人としては恥ずべきことなのだが、仕事なんてくだらないものが待っている。あまり時間がなかった。

 中央アジア諸国はビザの簡略化や撤廃が進み、この数年でずいぶんと旅しやすくなってきた。そのぶん突破すべき関門がなくなってしまったわけで、寂しさや歯ごたえのなさもまた感じてしまうのだが、そんな中にあってトルクメニスタンはいまだ面倒なビザ制度を保持し、旅人のチャレンジ心を煽ってくれる。観光ビザがややこしいので、トランジットビザ(その国を通過して第3国へ抜けるためのビザ)を取得して旅するしかない、というのもシブい。ビザ申請地点や、タイミングによって発給までの日数がまちまちだったりして、しかも1週間だの10日だのかかるというのもガッツをかきたてられる。

 とはいえ日程が読めず現地で長期の足止めをくらうとあっては、いちおう社会人の端くれである僕にはちょっと難しかった。そこで涙を飲んで、せめてトルクメニスタンを見渡せる場所にとやってきたのである。前回(#70)、アラル海を訪れてヌクスの街に帰る道すがら、チャーターした車の運転手にリクエストしたら、この丘に連れてきてくれたというわけだ。

 ミズダル・ハーン遺跡というらしい。14~16世紀にかけて中央アジアをシメたティムール朝によって制圧された街の残骸が、斜面に続く。霊廟やら墓地やらが打ち捨てられていて、冷たい砂漠の風に吹かれ、なんだか呪われそうな丘であった。

 

ミズダル・ハーン遺跡からトルクメニスタンが広がる方向を望む。運転手の背中が煤けている