文と写真/室橋裕和

タイ東部、カンボジア国境に近い地方都市チャンタブリー。小さな街だが、ここには世界中から人を集める国際市がある。国境を越えたビジネスが展開されているのだ。

 

「少しマイナーな街」に行ってみよう

「ガイドブックにちょろっとだけ載っている」ような街がけっこう好きだ。

 誌面で大きく扱われているわけではないから、旅行者はそう多くない。でもわざわざページを割くのだから、なにかひとつやふたつ、小さな見どころもあるわけだ。そんな街を訪ねてみれば、ほどよいローカル感を味わいつつ、ささやかな観光地を見て回る楽しさもある。

 タイ東部のチャンタブリーもそうした街といえるだろう。かの有名ガイドを紐解けば、たったの2ページしかない。しかし意外にいろいろ見どころがあり、バンコクから1泊くらいのミニ旅行にはちょうどよい場所なんである。そしてこのチャンタブリーは、国境の持つミックスカルチャーにも満ちた街だったのだ。

 

チャンタブリーのシンボルともなっているカトリック聖堂。日曜は近隣のキリスト教徒で賑わう

小さな街ながらも観光スポットいろいろ

 バンコクからは、エカマイの東ターミナルを出るバスもしくはロットゥーと呼ばれるミニバンで4時間ほどの距離である。街から東に50キロも進めばもうカンボジア、チャンタブリーは国境に向かう起点の街でもあるのだ。

 とりあえずは中心部に行ってみる。木造の古い家屋や問屋が並ぶ商店街は、いまや小さな観光地となっているらしい。タイ人女子が群れ歩き、昔風の民家を改築してスイーツやらちょっとした土産を売る店が軒を連ねる。歴史に取り残されたような街だが、それが逆にインスタ映えするのだと、誰もスマホで自撮りに忙しい。タイはいまレトロブームでもある。

 ふだんガイドブックには一行たりとも記載のない修羅の世界を旅している僕ではあるが、たまには下界に降りて平和な観光地をそぞろ歩くのも悪くはない。ホームメイドのアイスなんか売ってる店があったので、ココナツ味のやつを買って古風な街をゆけば、壮大なゴシック建築が見えてくる。タイ最大のカトリック教会が立っているのだ。1711年に建立されたものらしい。

 仏教国タイにも実はけっこうカトリック教徒がいるのだが、東部のカンボジア国境に沿ったエリアに集住している。ここチャンタブリーもそのひとつだ。これはカンボジアではなく、そのさらに向こうのベトナムにルーツがある。フランスが進出する17世紀以降カトリックが増えていったベトナムだが、迫害を受けることもあり、一部の集団は国境を越えて、そしてカンボジアやラオスを越えて、タイ東部に安住の地を求めた。定着した彼らは壮麗な教会をつくり、コミュニティの中心とした。そんな街がタイの東部国境沿いには点在しているのだ。

 で、こういう街ではベトナム料理がいけるというのもガイドブックにはあまりない情報かもしれない。名物の生春巻きやら、とろみのある米クイジャップ・ユアンあたりが定番だろう。

 「ちなみにユアンってのはタイ語でベトナムを指すんだぜ……」と誰も聞いていないウンチクをぶつぶつ呟きながらチャンタブリー川に沿って歩いていくと、やたらに活気のある一角に出た。やはり古びた界隈だが、あちこちにテーブルが出て、人が集まっている。電卓を手に値段交渉する姿も目立つ。その顔だちはインド系や欧米人、黒人、中華系とさまざまだ。タイ東部のこんな田舎町なのに、やたらとインターナショナルなんである。

 

チャンタブリー河に沿って古い街並みが続き、人気の散歩コースとなっている