文と写真・室橋裕和

バングラデシュ東部とミャンマー西部。そこは人類のひとつの「最前線」だ。コーカソイドとモンゴロイドの境界であり、仏教徒とイスラム教徒とヒンドゥー教徒が混在する。さまざまな人種や文化がぶつかりあい、混じりあい、複雑な色合いを見せる。まさに国境の面白さを凝縮した場所なのだが、それゆえの衝突もまた起きる。ロヒンギャ問題も然り。そして僕の大先輩でもある下川裕治さんは、この地域で長年、ある活動を続けている。
 

難民キャンプからのお土産

「ムロハシくん、こんなのいる?」

 珍しく下川さんがそんなことを言ってきた。このタビリスタでも連載をしている、旅行作家の下川裕治さんである。僕も一緒に仕事させていただくことがあり、ときどき顔を合わせるのだ。見れば、なにやら赤い色をした包みだった。

 「この前、バングラデシュで買ってさ」

 子供の絵があしらわれた安っぽいイラストの上に、商品名とともに「LEPHET」とか書かれている。
 コレがいったいなんなのか、パンピーが見たってちっともわからないだろう。だが僕も下川さんほどじゃないが、長年アジアに通い詰めたマニアである。ラペットウッといえば発酵させたお茶の葉を使ったサラダ。ズバリそれをアレンジしたスナックでしょう。でもコレ大丈夫なんすか? 発酵食品とはいえ暑さでやばくなりそうなパッケージですけど……。と、そこまで言ってこそ下川さんの後輩というものである。

 しかし考えてみれば、ラペットウッといえばミャンマーの食品だ。下川さんはそれをバングラデシュで買ったのだという。

 「そんなのがさ、ばんばんミャンマーから入ってくるんだよ」

 国境線となっているナフ川を越えて、おおぜいの人々がミャンマーからバングラデシュに流れ込んでくるポイントがある。かのロヒンギャ難民だ。彼らはバングラデシュ南西部に巨大なキャンプを築き、いまやその数は60万人に達するといわれている。鳥取県の人口が57万人だから、もうキャンプとは呼べない規模だ。となれば当然、ミャンマーの物資も正規に非正規に入ってくる。バングラデシュにあるロヒンギャ難民キャンプには、ミャンマーの品々があふれかえっているのだという。下川さんはそこを取材してきたのだった。

 正直に告白すれば、くやしい。

 僕はいまだ、その国境を訪れることができていないのだ。御大に遅れを取るのは仕方がないとはいえ、昨今ずいぶん注目されている国境が未踏であるのは情けない限りである。

 ありがたくいただいたラペットウッはどう見たってマズそうなのでちょっと躊躇したが、食べてみるとピリ辛で意外にいけた。

 

ラペットウッを唐辛子で和えたお菓子。ビールに合う