荒野の真っ只中を走る!

 宿の娘に見送られてカンポン・スララウを発つ。たった1日いただけだが、美しいところだった。

 村を出て走り出すと、茶色い埃が舞い上がる。視界があまりきかない。ガタガタのダート道を低速で越えていく。しばらくは埃にまみれた畑や、刈り取りの終わった田んぼが見えていたが、それもなくなり左右はブッシュというかジャングルというか、無人の荒野がひたすらに続く。

 「見ろ」
 運転手のツレが後ろを振り向く。
 「パームツリーだ」
  「イエス」
 「あれは、スモールビレッジだ」
 「OK」

 いちおう100ドルぶんのガイドをするつもりのようだ。

 「ユーシー、メコンリバー」
 促されて、左手を見る。川岸のすぐそばを走っていた。雄大な流れと併走する。ところどころに中州の島が浮かんでいる。あれらすべてはラオス領なのだ。ボーダーサイド・ドライブだ。かっこいい。

 国境を従えて走っていることだけではない。このルート自体、日本人旅行者で走破した者がいるだろうか。ここまでカンボジアの奥地を攻めた旅人は僕だけではあるまいか。そう思うと昂ぶる。ラジオから流れる演歌のようなカンボジアの歌に乗って、みんなで声を合わせる。

 道はところどころに大穴が開き、30キロも出せない。やがてメコンを離れ、周囲すべて人の手の入っていない原野のようになった。フロントガラスはもう真っ白だ。ぴったり窓を閉めていても、どこからか埃が入ってくるようで、目や喉が痛い。

 それでもときどき、数軒の民家を見る。まわりにはわずかな田畑。隔絶されたような、こんな場所にどうして、と思う。子供たちが井戸と格闘し、男たちは畑を耕し、炊事の煙が上がる。走っているクルマは僕たちのほかにほとんどなかったけれど、たまにすれ違うのはナベカマや布や洗面用具やバケツなどの日用品を満載したトラックだった。どんな場所でも、人の暮らしはあるのだ。

 まるで砂漠のラリーのような険しくもうもうと煙る道を走り続けること3時間、前の座席のふたりから安堵したようなため息が漏れた。

 「おおお……」
 僕も思わず声が出た。

 舗装路だ。ようやく大きな道にぶつかったのだ。文明世界に帰還したような安心感があった。クルマの激しい揺れは、嵐が収まったかのように静かになった。運転手がスピードを上げる。

 「ストゥントレンまでは1時間もかからないぜ!」

 

こんな道が延々と続く。それでも物資販売のトラックがちゃんと走っていて、沿道の村の生活を支えている
この光景を見たときはホッとした。やっと激しい振動から開放される

【越えて国境、迷ってアジア #81】

 

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もはや移民大国。激変を続ける「日本の中の外国」の今を切りとる、異文化ルポ。竹ノ塚リトル・マニラ、ヤシオスタン、大和市いちょう団地、茗荷谷シーク寺院、東京ジャーミィ、西川口中国人コミュニティ、そして新大久保ほか。2017年末で250万人を超えたという海外からの日本移住者。留学生や観光客などの中期滞在者を含めれば、その数は何倍にも