食いしん坊の私にとって、おいしい食事にワインは欠かせません。とはいえ、日頃はごく庶民的なお値段の物を適当に選んで楽しんでいるのですが、ワインにまつわる思い出のお話しはいくつかあります。

 

 まず、世界中の星付きレストランを巡っている“グルメな友人”とパリのトゥール・ダルジャン(鴨料理で超有名)を訪れたときのこと。当時、お店のワインセラーを管理するマネージャーが若い日本人の方で、「ワインセラーをご覧になりますか?」と誘ってくださったのです。「ぜひ!」と応えた私たちは、400年の歴史があるワインセラーに案内されました。そこは第二次世界大戦中にナチスがパリを侵略したとき、入り口や壁を塗り潰して隠し通したワインセラーで、何世紀も貯蔵され、蜘蛛の巣に覆われたワインが静かに眠っていました。 さすがフランス人魂! いま思い出しても、とても貴重な体験です。

 

 私がカリフォルニアのナパ・ヴァレー産でいちばん美味しいと思うのは「Opus One」。最高級のワインで、お値段は数万円からン10万円とかなり高い。ワインの愛好家の方々にめちゃくちゃ人気があるので、最近はなかなか手に入りにくくなっているようです。じつは数年前に、映画監督のフランシス・フォード・コッポラ監督のお招きで、彼が住んでいるナパ・ヴァレーのワイナリーに滞在したことがあります。広大なワイナリーの一角には瀟洒なコッポラ邸や映画編集スタジオもありますが、そのお隣(といっても葡萄畑を挟んで車で15分くらい)に「Opus one」のワイナリーもあるのです。もちろん、足を運びました。同業者のコッポラさんには「ちょっと失礼かな?」と思って、内緒で(笑)。 まず驚いたのは、想像をしていたよりこじんまりしていたこと。ご存知のようにワインは繊細な飲み物。地質や地形や気候にこだわり、熟成や温度管理などなどに細心の注意をはらい、丁寧にていねいに造らなければ美味しいワインはできません。「Opus one」のワイナリーは、その条件を満たす限られた土地で造られているからこそ美味しいのだと、あらためて納得しました。もちろん、気さくで親切なスタッフの方に勧められて、たっぷりとレアワインを試飲をさせていただき、至福のときを過ごしたのは言うまでもありません。

 

 ディナーの締めは、やはり食後酒「シャトー・ディケム」で。貴腐ワインの最高峰とも言われていて、小さいボトルでも数万円はするほど。でも、その贅沢な味はまさに甘露!「ワインは飲み物ではない。芸術品だ!」だと思い至りました。

シャトー・ディケム [1998]750ml

戸田奈津子 取材協力:金子裕子

 今回のリレーエッセイ「ワインにまつわるエトセトラ」に寄稿してくださった戸田奈津子さんが翻訳を手掛けた書籍『わたしのウエストサイド物語』が12月7日に双葉社から刊行されます。本書は、映画「ウエストサイド物語」でベルナルドを演じたオスカー俳優、ジョージ・チャキリスの自伝です。ミュージカル映画、不朽の名作として知られる「ウエストサイドストーリー」は、1961年の公開から60年の時を経て、スティーブン・スピルバーグ監督による映画化も決定。オリジナル映画の誕生秘話から、華麗なるビッグスターとの知られざるエピソードまでを赤裸々に綴った360ページにも及ぶ長編ドキュメントです。映画ファンのみならず、世代を超えて読んでいただきたい作品、四六判上製の豪華本は完全保存版です。

『わたしのウエストサイド物語』ジョージ・チャキリス著、戸田奈津子訳 定価2640円(双葉社)

KEEP ON DREAMING
KEEP ON DREAMING

一途に“映画”を追い続けた少女は、いかにして“夢”を叶えたのか?戦争体験、長い下積み、ハリウッドスターとの華やかな交友…etc.人生のほとんどを“映画=夢”に捧げ、現在も第一線で走り続けるスーパーウーマン。これまで語られることのなかった“素顔”とは?字幕翻訳の第一人者が語る初の自伝ノンフィクション。

 

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